以前は旧正月の4月に行われていた盛大な水かけ祭りもコロナの影響で中止に。大規模に警察が動員され、水かけする姿も見えないカオサン通り(バンコク=撮影:山内茂一)
以前は旧正月の4月に行われていた盛大な水かけ祭りもコロナの影響で中止に。大規模に警察が動員され、水かけする姿も見えないカオサン通り(バンコク=撮影:山内茂一)

 捨て身の保険金獲得作戦である。

 その後、タイではデルタ株が広がり、ベッドやECMO不足に陥る。ベッドが空くチャンスは私立病院のほうが高いという噂が広まり、加入者はさらに増えていった。かけ金が3千円ほどの保険に入ることがタイではブームのようになっていったという。

 政府は保険業界に販売の自粛を促したが、久々のヒット商品に保険会社は浮足立ち、走ってしまう。

 とはいえ保険会社も感染がこれほどまで拡大するとは思っていなかった。タイ保険委員会(OIC)によると、21年末、加入保険総額が109億バーツ(約411億円)に対して、支払額は399億バーツ(約1500億円)という結末に。

 保険会社には倒産や廃業への道が待っていた。

 日本に10年以上暮らし、今は経営コンサルタントを営んでいるWさん(60)は、こう話す。

「タイの病院の治療格差が根本問題。そこが日本と違います。人々は未知の病気に動揺した。その間隙(かんげき)を突いて保険会社は瞬間的に大儲けをしたけれど、コロナ感染を甘く見ていた」

 経営が立ち行かなくなる保険会社は今後も増えていくといわれている。

著者プロフィールを見る
下川裕治

下川裕治

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など

下川裕治の記事一覧はこちら