スペイン広場の賑わいをよそに右角の建物がキーツ、シェリー記念館(写真提供:帚木蓬生さん)
スペイン広場の賑わいをよそに右角の建物がキーツ、シェリー記念館(写真提供:帚木蓬生さん)

『ネガティブ・ケイパビリティ』という本が、著者も驚く広がりを見せています。著者は、精神科医で作家の帚木蓬生さん。「答えの出ない事態に耐える力」について書いた本で、刊行は2017年ですが、医療界のみならず、教育やビジネスの世界、子育て世代にも響いて、コロナ禍以降は、先の見えない時代を生きる知恵としても引き合いに出されています。
 この力を知ると「生きやすさが天と地ほどにも違ってくる」と著者が言うネガティブ・ケイパビリティについて、詳しく聞きました。

※「コロナ、物価高、ウクライナ侵攻 今こそ必要なのは『ネガティブ・ケイパビリティ思考』だ」よりつづく

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――ネガティブ・ケイパビリティについてお聞きしたいのですが、朝日選書のもう一つのご著書『生きる力 森田正馬の15の提言』にあった、「人は不安のうえに住んでいるのです」という言葉にも、救われる思いがしました。緊張や不安はあるのが当たり前で、なくさないとダメというわけではないのですね。

 不安のない人生はない、ということです。森田正馬の言葉では「不安常住」。

 のちに「森田療法」と呼ばれる治療法を始めた人です。その森田がもう一つ推奨したのが「ハラハラドキドキ」ですよ。ハラハラドキドキが一番いい状態だ、と。

帚木蓬生著『生きる力 森田正馬の15の提言』(朝日選書)※Amazonで本の詳細を見る
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 私は本当にそうだと思うのですが、患者さんはこれを嫌がって相談に来ます。例えば「勤務先の朝礼で話をしなければならなくなった。不安で仕方ないから、薬はありませんか」というふうに。いや、声も震わせて足もガクガクでいいんだから「今日はこういう心でいきましょう」って言えばいいんですって、励ましますけれど。

 私も講演の前にハラハラドキドキしてくると、いやあいい状態だ、こりゃやるぞーって。案外うまくいきますよ。鎮めなきゃいけないなんて思ったら、いよいよ緊張が高まります。

――「見つめよ、逃げるな」と書いておられましたね。なんだかネガティブ・ケイパビリティに通じるような気がします。

 そうですね。

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初めてネガティブ・ケイパビリティについて書いたのは22歳の詩人だった