2020年の『M-1グランプリ』では、型破りな漫才を演じて喧々諤々の「漫才論争」を引き起こしたマヂカルラブリーが優勝した。2021年の『M-1』では、狂気じみたパフォーマンスを見せるランジャタイが決勝の舞台に出てきた。2021年の『女芸人No.1決定戦 THE W』では、地下芸人界の女傑・オダウエダが優勝を果たした。立て続けに地下の臭いのする芸人が出てきたことで、地下芸人という存在が注目されるようになった。

 彼らは「地下」を根城にしていたとはいえ、本当の意味でターゲットの狭いマニアックなことをやっていたわけではない。いわば、魂はマイナーでも芸はメジャーだった。だからこそ、お笑いコンテストで結果を出すことができたのだろう。

 第七世代ブーム以降、お笑い市場は活気づいていて、景気の良い時期が長く続いている。そんな中で、どんどん新しい人材が求められるうちに、ライブシーンの一番底にある地下芸人という鉱脈が見つかり、そこが掘り起こされることになったのだ。

 その背景には、テレビでMCを務めるような立場の芸人が後輩に対して優しくなっている、という時代の変化もある。一昔前のテレビでは、先輩芸人は後輩芸人に厳しく接することが当たり前だった。芸歴が違うとはいえ、お互いがライバルであり、競争相手であるという意識が強かった。そんな中で、新しく出てきた後輩芸人は萎縮してしまい、本来の良さを出せないこともあった。

 だが、最近では、先輩芸人も優しくなり、後輩芸人の暴走を温かく受け止めるようになっている。実際、前述の『ダウンタウンDX』でも、ランジャタイの国崎和也は、ほかの芸人が少し前に話したのと全く同じ話を2回繰り返す暴挙に出て、ダウンタウンをあきれさせた。そのような破茶滅茶な振る舞いをしても、ダウンタウンの2人は怒ることはなく、寛大に受け止めてくれる。

 お笑い界全体に優しい空気が漂い、駆け出しの芸人が自由に暴れるのを許してくれる土壌ができたことで、地下の臭いのする人たちがテレビでのびのびと振る舞えるようになった。

 最近では、ギャンブルで借金を重ねる岡野陽一、鈴木もぐらのような「クズ芸人」、先輩にも平気で噛みつく鬼越トマホークのような「毒舌芸人」など、ネガティブな要素を売りにした芸人が勢いづいている。地下芸人もその一種であると言える。

 芸人が「地下っぽい」というのはかつては悪口だったが、今では褒め言葉になった。お笑いブームが続き、芸人のスタイルがどんどん多様化していく中で、地下芸人はその進化の最先端にいる存在なのだ。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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