須藤靖著『宇宙は数式でできている』(朝日新書)※Amazonで書籍詳細を見る
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 2019年4月10日に、EHT(Event Horizon Telescope:事象地平線望遠鏡)共同研究グループが、楕円銀河M87の中心にある巨大ブラックホール(の)を電波で撮像したことが話題になりました。事象地平線とはシュバルツシルト半径の別名です。

 写真の中心の暗い部分が大まかにはブラックホールの領域ですが、正確にはブラックホールの大きさ(シュバルツシルト半径)の約3倍の大きさに対応しています。そのため、これはブラックホールそのものではなく、ブラックホールシャドー(影)と呼ばれています。その周りを囲むリング状の明るい部分は、いわばブラックホールに引き寄せられてまとわりついている光の束です。

 いずれにせよこのデータは、ブラックホールはやはり黒い穴なんだなあという直感的なイメージを確認してくれる芸術的な観測結果だと思います。

■素朴な疑問に答える ブラックホールに入るとどうなる?

 ここでちょっとしたQ&Aを紹介します。ブラックホールを理解する上で、とてもわかりやすい質問と解説になっています。

【Q】人類がブラックホールに到達することは可能なのでしょうか? 実際に入ってみたら人はどうなってしまうのですか?

【A】なかなか冒険心に富んでいますね。実はこれはとても面白い質問なのです。人間がブラックホールに向かって頭から落ち込んでいる状況を考えましょう。

 その場合、ブラックホールの重力によって、人間の体は落下方向に沿って引き伸ばされます。太陽質量程度のブラックホールの場合には、その力が強すぎて人間は直ちにバラバラに引き裂かれてしまいます。おそらくホラー映画のような光景となることでしょう。

 ところが、太陽質量の100万倍程度の超巨大ブラックホールの場合には、引き伸ばす力は逆に弱くなってしまい、ほとんど気がつかないうちにブラックホールの内側に入り込んでしまうはずなのです。このようにみなさんの直感とは全く逆に、ブラックホールは大きければ大きいほど危険性がなくなり、安心安全な天体になります。

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私たちはすでにブラックホールの中にいる?