ブラックホールと聞くと、暗く渦巻いた恐ろしい天体というイメージはないだろうか? 2019年に史上初めて撮影が成功するまで、我々はブラックホールを見たことはなかったのだ。今や天文学の主役と言われるほど重要な存在となっているブラックホールの謎を、東京大学教授で、宇宙物理学者の須藤靖氏が、著書『宇宙は数式でできている』(朝日新書)で解説している。
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■ブラックホールは宇宙で一番明るい天体?
かつては数学的な解に過ぎず実在するはずがないと考えられていたブラックホールですが、今では天文学の主役と言えるほど重要な観測ターゲットとなっています。
ここで「あれ? 光さえも脱出できないはずのブラックホールは観測できないはずではないか」と思われたかもしれません。ところが実際には、ブラックホールはその強い重力によって、周りにある物質を次々とのみ込みながら成長するため、それらの物質はブラックホールに到達する以前に膨大なエネルギーを光として放出します。その光はシュバルツシルト半径の十分外側から出てくるおかげで、観測できるのです。
初めてのブラックホール候補天体とされたのは、1964年に白鳥座で発見されたX線で輝く天体、白鳥座X-1です。これは、20太陽質量(太陽の20倍の質量)を持つ青色超巨星の周りを回る15太陽質量のブラックホールであると考えられています。連星をなしている青色超巨星のガスがブラックホールに流れ込む途中で、高温となって強いX線を出しながら輝いているのです。
最近では、我々の天の川銀河を含むほとんどの銀河の中心には、太陽の10万倍から100億倍の質量を持つ超巨大ブラックホールが存在していることもわかってきました。また、クエーサーと呼ばれる宇宙でもっとも明るい天体は、超巨大ブラックホールに周辺の物質が降り積もる際に大量のエネルギーを放出しているものと解釈されています。
このように、ブラックホール自身は暗くて観測できないのにもかかわらず、それを中心に持つ系は宇宙でもっとも明るい天体なのです。