蜜璃の「桜色のしなる刀」は、刀鍛冶の里の最高の技術者・鉄珍が制作しており、通常の刀よりも長く柔らかく扱いづらい。これを寸分の狂いなく振り下ろせるのは、蜜璃の途方もない鍛錬によるものだ。蜜璃の様子がいつも明朗であるため、一見すると分かりづらいが、彼女は心身ともに「柱」にふさわしい強さを秘めている。

■甘露寺蜜璃の魅力

 蜜璃の魅力は、決して「お色気」ではない。「恋」という胸の高鳴りだ。人の心から発せられるパワーだ。自分を偽るのではなく、自分らしくあることを彼女は選んだ。熱い心が彼女を強くする。彼女が選んだ「本当の自分」は、か弱き他者を守るために、自分の身体と生命をささげることだった。

<今度また 生きて会えるかわからないけど 頑張りましょうね>(甘露寺蜜璃/12巻・第101話「内緒話」)

 鬼殺隊の隊士としての蜜璃の覚悟は重く、尊い。彼女の「自分のままで生きていたい」という心の叫びは、見ている私たちの心を打つ。アニメ3期では、なぜ彼女が「恋柱」なのか、十分に知ることができるだろう。そして、少し先の話にはなるが、刀鍛冶の里での戦いの後、蜜璃には「恋のエピソード」が待ち受けている。

<私のこと好きになってくれる人はいないの?>(甘露寺蜜璃/14巻・第123話「甘露寺蜜璃の走馬灯」)

 心細そうにつぶやいた、彼女の悲しい言葉は、真実の恋によって払拭される。甘露寺蜜璃は、最後まで彼女らしく生き、あの明るい強さを失わない。「自分が自分であること」に悩む人々の心にこそ、彼女の言葉は強く響くはずだ。

◎植朗子(うえ・あきこ)
1977年生まれ。現在、神戸大学国際文化学研究推進センター研究員。専門は伝承文学、神話学、比較民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー ―配列・エレメント・モティーフ―』、共著に『「神話」を近現代に問う』、『はじまりが見える世界の神話』がある。AERAdot.の連載をまとめた「鬼滅夜話」(扶桑社)が好評発売中。

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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