昨年『M-1グランプリ』で決勝進出したモグライダーの芝大輔(写真左)も愛媛県出身
昨年『M-1グランプリ』で決勝進出したモグライダーの芝大輔(写真左)も愛媛県出身

 一方、伊予弁と言われる愛媛の方言は、関西弁や広島弁にも近く、他地域の人からすると言葉がややきつく聞こえることがある。言葉は荒々しく感じられたりもするが、心は穏やかで落ち着いている。そんな不思議な形でバランスがとれているのが愛媛県民であるとすると、そこに当てはまる愛媛芸人の顔がいくつも思い浮かぶ。

 やさぐれた目線で世の中を斬るヒコロヒー、漫才で理屈っぽいキャラを演じる和牛の水田、「世直し」と称してマネージャーの仕事ぶりを批判する友近などには、どこか共通するものが感じられる。理屈っぽいし批判的ではあるが、本人の頭の中はいたって冷静な感じがするのだ。

 一方、荒々しさの部分が行き過ぎて「ヤンキー性」を帯びている人もいる。かつてはグレていて駆け込み寺に入れられた経験を持つオダウエダの小田、気性が荒く舌禍騒動を起こしたこともあるスーパーマラドーナの武智、「シャバい」が口癖のヒコロヒーなどはそちらに当てはまるかもしれない。

 お笑い文化の中心地は東京と大阪であるため、標準語と関西弁がお笑い界の共通語になっているようなところがある。だからこそ、東京圏と大阪圏から多くの芸人が輩出されているのだ。

 一方、伊予弁は関西弁に似ているところもあるため、愛媛芸人は比較的早く関西弁に馴染むことができるし、違和感を持たれづらい。その点もお笑いをやる上では有利だと言える。

 言葉がきつくて荒っぽいところもあるけれど、意外と温和でのんびりしていて優しい。そんな愛媛芸人がいまお笑い界で台頭しているのは、「飾らない本音」と「根底にある優しさ」が世の中に求められているからかもしれない。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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