津波と火山灰に襲われたトンガの街。左が噴火前、右が噴火後(国連衛星センターより)
津波と火山灰に襲われたトンガの街。左が噴火前、右が噴火後(国連衛星センターより)

 こうした記憶もあり、今回の噴火が「令和の米騒動」になるのではないかと懸念が出ているのだ。こうした混乱を予想してか、コメ卸会社の株価が一時上がるなど、市場にも影響が出た。

 専門家はどう見るか。火山噴火と小天体衝突による気候変動に詳しい東北大の海保邦夫名誉教授は「二酸化硫黄がどのくらいの量入っていたかが重要だ」と指摘する。

■サイモン教授「影響はない」

 では、今回どのくらいの二酸化硫黄が噴火によって出たのか。

 人工衛星による火山ガス観測に詳しいミシガン工科大のサイモン・カーン教授(火山学)は「二酸化硫黄の放出は40万トン程度だ」とAERAdot.の取材に対して説明する。その根拠は人工衛星「TROPOMI」によって観測された二酸化硫黄の量だ。16日に観測されたデータでは39万8千トンの二酸化硫黄が出ていることが示されている。

ミシガン工科大のサイモン・カーン教授提供。人工衛星「TROPOMI」によって観測された今回の噴火による二酸化硫黄の量がわかる。
ミシガン工科大のサイモン・カーン教授提供。人工衛星「TROPOMI」によって観測された今回の噴火による二酸化硫黄の量がわかる。

 91年のピナツボ噴火では1500万~2千万トンの二酸化硫黄が搬出し、1500万トンが成層圏に入ったとされる。ピナツボの噴火に比べると、今回のトンガの噴火は明らかに二酸化硫黄の量が少ないといえる。

 サイモン教授はこう断言する。

「これは地球の表面温度に明らかに影響を与えるほどの二酸化硫黄の量ではない。気候に影響を与えるには、少なくとも500万トンの量が必要だと考えています。今回の噴火は、気候に影響を与えたピナツボ火山の噴火より、30~40倍程度少ないです」

 海保名誉教授もこう説明する。

「現時点では、成層圏に入る二酸化硫黄が少なく、生成される硫酸エアロゾルによる世界の気候への影響はほとんどないと考えられます。ただ、火山灰の粒子が小さく、かつそれが成層圏に入った場合、硫酸エアロゾルと違い、時間差がなしで日射量が減少する影響が出る。ただ、その期間は短く、今後1~2カ月日射量の減少が起きる可能性があり、南半球の近隣地域で農作物などに何らかの影響がでるかもしれません。今後どのくらいの大きさの火山灰の粒子だったのか注目する必要があります」

 歴史をひもとくと、寒冷化の事例は少なくない。例えば、1783年にアイスランド南部にある火山で大規模な噴火が起こり、世界が寒冷化。その後、同年に日本でも浅間山が天明大噴火を起こしている。火山灰による直接的な被害だけではなく、寒冷化によって天明の大飢饉と呼ばれる事態になっている。日本でも富士山などが大規模噴火や巨大噴火を起こすリスクがあり、首都圏への降灰だけではなく、広い範囲での冷害にも備える必要はある。

 トンガで今後再び大きな噴火が起きれば、当然、事態は変わる可能性はある。引き続き状況を注視する必要がある。

(AERAdot.編集部・吉崎洋夫)

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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