大西秀樹医師(左)と臨床心理士の石田真弓氏(写真=大西医師提供)
大西秀樹医師(左)と臨床心理士の石田真弓氏(写真=大西医師提供)

 外来に来る患者には、もちろん仲良しだった相手を失った人もいるが、そうではない事例も多々ある。

 夫が無口で、いつも愛想のない返事しかもらえず会話のなかった夫婦。夫を亡くすと、妻は嘆き悲しんで泣いた。「もう、うんともすんとも言ってくれない」

 離婚した元夫ががんで亡くなった後、つらさに耐えきれず受診に来た女性もいた。

 母以外の女性と交際し家を出ていき、お金の無心を続けてきた父ががんでやせ細って亡くなった。その父を恨んでいたはずの娘がやってきたこともあった。

 はた目には良い関係だったようには映らないのだが、これが死別の現実なのだという。

 患者の状態はさまざまで、一回の診察で安心感を得て終わる患者もいるが、心身に大きな影響が出てしまう例は少なくない。死別後1年目で、遺族の15パーセントがうつ病だという海外の研究データがあるそうだが、遺族外来の患者も30~40パーセントが初診時にうつ病と診断される。

 不眠に悩まされたり、行動意欲が低下し家から出なくなった人。食欲がなくなったという患者を検査した結果、「かっけ」という栄養欠乏による病気がわかったケースも複数ある。

 自殺願望を抱き、電車に飛び込む寸前で助けられた人もいた。

 石田氏は、ある40代の女性患者の記憶を語る。その女性は夫ががんで亡くなった翌日、夫と面会したいと病院を訪れたのだ。

「お父さん(夫)から連絡がないから心配になって病院に来ました、という理由でした。『解離性障害』という症状で、ショックのあまり夫が亡くなったことを完全に忘れてしまったのです」

 酒量が増え、日常生活に支障をきたす例も多い。国立がんセンター名誉総長の垣添忠生氏は、妻と死別後の数カ月間、つらさに耐えきれず酒浸りになったことを明かしている。人の死に多く接してきた医療者ですら、当事者になった途端、ストレスにつぶされかけてしまうのだ。

 45歳の筆者も妻をがんで亡くしており、2020年の秋と昨秋の2回、近い年代の死別経験者とオンラインで話す会に参加した経験がある。

次のページ
友人の声かけが逆効果になることもある