「ミスタータイガース」は、初代が藤村富美男、2代目は村山実、3代目・田淵幸一、4代目・掛布雅之だ。長嶋茂雄は藤村のファンであり、村山のライバルゆえ必然的に「ミスタージャイアンツ」になる。ミスタータイガースのほうが先なのだ。巨人の「ミスター」は長嶋だけ。阪神は複数存在する。つまり歴史的に、巨人は「チーム力」で戦ってきたといえるだろう。阪神は「個の力(ミスタータイガース)」を中心に戦ってきた。しかし、1988年の掛布引退後、「5代目」は出現していない。

 掛布氏は「ミスタータイガースの条件」として5つを掲げる。

【1】孤高に耐えうる精神力

【2】タイトルを複数回獲得

【3】試合に出続ける

【4】相手のエースまたは四番からリスペクトされる

【5】チームリーダーとして優勝を経験

 チーム力で戦ってきたライバル・巨人だが、川上哲治、ON以降も、生え抜きの四番は原辰徳、松井秀喜、阿部慎之助、第89代目の四番・岡本和真まで連綿と続く「巨人の四番打者」の系譜がある。

 阪神の「四番300試合以上」は、ドラフト制以降、田淵、掛布、岡田彰布、オマリー、桧山進次郎、金本知憲、新井貴浩、ゴメスの8人。【2】を唯一クリアする今岡誠にしても、【3】に該当する鳥谷敬にしても、「四番打者タイプ」ではないことから、残念ながらミスター・タイガースの称号は冠せられなかった。

 阪神は2021年、佐藤輝明が第107代目の四番に座った。その佐藤輝明、大山雄輔、井上広大のいずれかを「真の四番打者」、すなわち「5代目ミスタータイガース」に育て上げることこそが「12球団で最も日本一から遠ざかる」阪神タイガース再建に直結するのである。(新條雅紀)