Cocco
Cocco

 その11年後には、ツイッターで「あ~和田アキコ殺してえ。」「なんとか紳助も殺してえ。」(原文ママ)とつぶやき、謝罪。ただ、本人は謝罪の前にこんなツイートもしていた。

「えんじょう????何それ。あたしいつもこういうハメになるなぁ。フツウにしてるつもりなんだけど。ネットってこわ~」

 前出の「月光」には「この腐敗した世界」に「堕とされた」という歌詞があり、この「腐敗」というフレーズには特にこだわったという。自分の感覚と世界の感覚のズレ。そこから生じる生きづらさを赤裸々に表現してきたからこそ、コアな支持者を獲得できたわけだ。

 そんな支持者のひとりが、光宗薫。AKB48でスーパー研究生として注目されながら、摂食障害などの体調不良でアイドル活動を休止し、現在はマルチに活動中だ。今月「月光」をオマージュした写真展を開催した。

 さて、鬼束と支持のされ方が似ているのが「強く儚い者たち」や「樹海の糸」などで知られるCoccoである。自傷行為や拒食症も告白していて、雑誌の表紙に傷があらわな腕をむきだしにした姿で登場。映画「KOTOKO」でも血まみれのヒロインを演じた。そのパンフレットでは、こんな発言をしている。

「世の中が描く女性や母性に対する妄想や過度な期待を改め、現実の狂気や一見不可解であっても深く凄まじいほどの愛の形を認識してもらう必要性を強く感じます」

 こちらもやはり、自分と世界のズレを表現しているのだ。それゆえ、熱烈なファンがいる。「紅白」に出場すれば、盛り上がるだろう。

 ただ、この人も生番組向きではない。鬼束が動物虐待騒動を起こした翌々月、同じ「ミュージックステーション」に出演したときのこと。彼女は「テレビに出るのとか好きじゃない」などと語りつつ、歌を披露したが、歌い終わるやいなや、その場から走り去り、ビックリさせた。

 そんなCoccoや鬼束に対し「紅白」に連続出場できたちあきなおみや藤圭子は何が違ったのだろうか。作風の幅の広さや時代背景など、いろいろ考えられるが、じつは本質的なところについてはあまり違わない気もする。

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「歌の背後から血がしたたり落ちるような迫力」