――文学は論理と対立する概念でないのですね。

 前述した通り、文学は論理を超越します。たとえば、物理学者の寺田寅彦は随筆の名手でもありました。物理の知識だけではなく、その背後にある世界観を文学的に表現しています。彼の「天災は忘れたころにやってくる」という警句は有名ですが、こうした論理を押さえたうえで、読ませる文にしていく表現力などを高校の授業で教えるべきなのです。古典もしかり、近代文学には次の時代につながるものがたくさんありますよ。

――「論理国語」では、ディベートなどのアウトプットに重きをおいています。

 アウトプットのためにはたくさんインプットしないと。中身がなければ何もできません。  

 実学重視の日本とは違って、フランスの大学入学共通資格試験であるバカロレアでは、哲学が必須ですよ。アンリ・ベルクソンなどが出され、口述試験もありますから、高校生から普通にロジカルシンキングや哲学を学びます。論理を重視せよというなら、フランスのような入試に変えればいいのにと思います。

 文科省は「人を耕す=カルティベートする」つもりがないのだと思いますね。国語科では本来、もっと人間の深い「カルチャー」の部分まで耕すべきなのに、「論理的」で「実用的」な文章を重視するというのは、人間の表層部に機械をつかって種をまいているだけです。

 授業の名前を「日本語」でなく「国語」と呼ぶ意味を考えてみてください。決して日本語の文法や知識を教えるだけのものではないはずです。もっと「人間を深くまで耕す教育」であるべきです。

(構成/曽根牧子)

山口謠司(やまぐち・ようじ)/中国文献学者。大東文化大学教授。1963年、長崎県生まれ。同大学大学院、英ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。NHK番組「チコちゃんに叱られる!」やラジオ番組での簡潔かつユーモラスな解説が人気を集める。2017年、著書『日本語を作った男 上田万年とその時代』で第29回和辻哲郎文化賞受賞。著書や監修に『ステップアップ  0歳音読』(さくら舎)『眠れなくなるほど面白い 図解論語』(日本文芸社)など多数。2021年12月に監修を務めた『チコちゃんと学ぶ チコっと論語』(河出書房新社)が発売。母親向けの論語講座も。フランス人の妻と、大学生の息子の3人家族。