イラスト/タナカ基地 『心の病気にかかる子どもたち』(朝日新聞出版)より
イラスト/タナカ基地 『心の病気にかかる子どもたち』(朝日新聞出版)より

 実は学習指導要領に精神疾患にかかわる項目が収載されるのは今回が初めてではなく、40年ぶりの再登場になります。

 40年前までは教えていたのにやめてしまったのは、授業時間には限りがあり、教えるべきことが増えていく中で、相対的に優先度が落ちていったというのが、一番の理由でしょう。

 近年は子どもにかぎらず、うつ病や適応障害など、心の病気になる人が増え、職場でストレスチェックが導入されるなど、精神疾患はひとごとではなくなってきています。さらに精神疾患の約75%は20代前半までに発症するため、若い人たちにとってより切実な問題です。精神疾患に対する偏見や誤解も根強く、ぜひとも正しい知識を知っておいてもらう必要があります。

 つまり「現代社会を生きる子どもたちが知っておくべきこととして精神疾患の優先度が上がり、学習指導要領に加わった」ということでしょう。

■学校で精神疾患について学ぶことで何が変わるのか

 精神疾患は20代前半までに約75%が発症するわけですから、社会に出てから教えても間に合いません。その前に、学校教育の中で精神疾患の知識を身につけておけば、10代、20代で発症したとき、自ら兆候に気づくことができます。友だちなど周囲の人の様子がいつもと違う時にも、気づいてあげることができるでしょう。

 子どもたちばかりではありません。教員や親の意識も変わり、子どもたちの変化や悩みに気づきやすくなります。

 また、精神疾患に対して偏見を持っている人や間違った理解をしている人は多く、症状に気づいていてもなかなか精神科を受診しません。学校教育によって「精神疾患は特別な病気ではない」という認識が浸透すれば、精神科を受診する際のハードルが下がり、早期治療につながることが期待できます。

 また今回は高校の科目「保健体育」だけに盛り込まれますが、精神疾患が増えてくる、すなわち重要度が増してくる時期は思春期と言われていて、高校からでは遅い。今後、中学校、小学校へと広げていく必要があるでしょう。

次のページ