東京都立松沢病院院長・水野雅文医師
東京都立松沢病院院長・水野雅文医師

 2022年度から高校の学習指導要領が改訂され、保健体育の授業で「精神疾患の予防と回復」を教えることになります。うつ病、統合失調症、不安症といった精神疾患は若い世代に発症しやすいにもかかわらず、正しい知識を学ぶ機会がなかったことが背景にあります。学習指導要領改訂に携わった精神科医で東京都立松沢病院院長の水野雅文医師は、「授業で学ぶ生徒だけでなく、保護者や教員にも正しい知識を持ってもらいたい」と、書籍を執筆。『心の病気にかかる子どもたち』(朝日新聞出版)が1月20日に発売となります。書籍からその一部を抜粋してお届けします。

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 精神疾患にかかる人はとても多く、若い世代で発症しやすい病気です。しかし学校教育年齢の児童・生徒は自分が患者になる可能性が高いにもかかわらず、ほとんどはその自覚もないし、精神疾患の正しい知識も持っていません。

 そこで2022年度から、高校の保健体育の学習指導要領に「精神疾患」にかかわる項目が盛り込まれることになりました。学習指導要領というのは、全国どこの学校でも一定の教育水準が保てるように文部科学省が設けている「教育課程(カリキュラム)の基準」のこと。小学校から高校まで、それぞれの教科の目標や大まかな教育内容を定めていて、子どもたちの教科書や時間割は、これをもとに作られています。

 学習指導要領の内容はおよそ10年に1度、社会情勢の変化などに応じて改訂されています。最新の改訂では、2022年4月から高校の学習指導要領に「精神疾患の予防と回復」が盛り込まれ、保健体育の授業の中で教えることが決まりました。

 保健体育では、将来さまざまな問題に直面した時に対処できるように、さまざまな健康課題への対応の仕方を教養として身につけます。病気にかかわる知識もその一つ。

 たとえば中学と高校で学ぶ「がん」は、若い人にはあまり関係なかったとしても、生涯2人に1人ががんになる時代を生きる中で、必ずその知識が必要になります。精神疾患のような若い世代で発症しやすい病気も、がんと同じように基本的な知識を身につけておく必要があるのです。

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