撮影:小松由佳
撮影:小松由佳

 写真展会場では、来場者のスマートフォンを利用して、作品に写る母子の生の声を聞くことができる。画面には翻訳も表示される。

 出産時に街が戦闘中で、自宅で出産したところ、重い障害があることがわかった息子と母親。2人の息子のうち、1人がISに連れ去られた母。ISに拷問されて脳が損傷し、歩けなくなってしまった夫と暮す女性と子ども。夫の仕事が不安定でDVを受ける妻と大勢の子どもたち。

■照明係は小松さんの子どもたち

 母子を撮る際、照明にはスポットライト代わりに懐中電灯を使った。

「彼らが抱えている状況について、深く考えたい。その側面を浮かび上がらせるためにスポットライトで撮りたいと思ったんです。それも不安定な光で」

 照明係を務めたのは3歳と5歳の小松さんの子どもたち。

「彼らが適当に照らして、私が撮る。子どもが照らすと、あっと声が出るような撮影ができたりするんです。近づいたり、遠ざかったり、思いがけないライティングをしてくれて」

 子どもを連れて取材をするようになったのは17年から。

 理由をたずねると、「まだ、子どもが小さいので、連れて行かざるを得ない。取材期間が長いですから」と説明する。

「長男が1歳のとき、歩けるようになったくらいから連れていきました。取材中におっぱいをあげたり、おしめを取り換えたりしながら撮影した。集中できないし、目が離せない。難民キャンプで迷子になっちゃったりもして。最初のころはすごく悶々(もんもん)としていましたね」

 場合によっては子どもを連れて行けない取材もある。

「そんなときは子どもを『お願いします!』と預けちゃう。難民の家に(笑)。でも、現地の人たちからすると、子どもを置いて撮りに来る、という感覚がないんですよ。だから、私が『子どもは預けてきました』と言うと、『あんた、母親なのに、何やっているの!』って、叱られる」

撮影:小松由佳
撮影:小松由佳

■生活を抱えていくことで見えるもの

 いまでは、子どもといっしょに行ける取材のときには、できるだけ子どもを連れていくようにしているという。

「自分の仕事を見てもらいたい、というのもあるし、子どもたちが現地の人と交流を深めていく。シリアの血を継いでいるので、やはり、自分のルーツの人たちと接してほしい。あと、できることは協力してくれるようになってもらいたい」

 振り返ってみると、子どもたちを連れて取材して、苦労したことや考えたことが写真に反映されてきているという。

「見知らぬ土地で子どもといっしょに行動するということがいかに大変か。母親って、小さい子どもがいると、常に子どもの存在が優占になるじゃないですか。そんな生活を抱えていくと、より難民の素顔が見えてくるんです」

アサヒカメラ・米倉昭仁)

【MEMO】小松由佳写真展「シリア難民 母と子の肖像」
富士フォトギャラリー銀座 12月10日~12月16日