フリーアナウンサーの川田裕美さん(撮影/写真部・東川哲也)
フリーアナウンサーの川田裕美さん(撮影/写真部・東川哲也)

 川田さんのメソッドは、すべて現場で培われてきたものだけあって、現在仕事をしている多くの人の参考になる。

アナウンサーの仕事では、すでにチームができあがっている番組に、私だけが新しく加わることも多いんです」

 一般の仕事で言うなら、転職や異動のときに相当する。

「そんなとき私は、一度自分を“消す”んです。そこにはそこのやり方があるし、人と人との関係もできているなかで、最初から自分らしさやヤル気を強くと出すと、周りとの距離感をわかってないと思われますよね。そうではなく、まずはその場に身を任せてみる。それまでの私を知っている人たちから『川田さんのよさが出てない』『変わっちゃったね』と言われると気にはなりましたが、私がやるべきは番組をよくすることであって、自分がどう映っているかを気にすることではないと思いました」

 それまでのキャリアがあればこそ、自分を“消す”のは簡単なことではないだろう。

「でも、しばらくそうしていると、『メインMCの方は出演者のみなさんに話を振る役で、私はみなさんが話しやすいよう情報を整理して提示する役』というように、自分の役割が見えてくるんです。そうしているうちに余裕も生まれ、自分らしさも自然に出てくるようになります」

 新しい現場ですべてのことをいっぺんにクリアしようとするのではなく、優先順位をつけて、まずは無理なく場になじむことに注力する。回り道を行くようだが、決してそうではない。

「最初から高いところを目指すと疲れちゃいますもんね」

 と微笑む川田さんを前にすると、それこそが実は最短の近道なのだということがよくわかる。

(取材・文/三浦ゆえ)

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