■日本は「わざとやった」が中国は違う

 さらに、キムさんは今後の景気についても心配する。

 韓国経済研究院が発表した「企業景気実査指数(BSI)」によると、製造業の展望値は11月と12月の2カ月連続で96.5(100より低ければ悲観的)と低いが、それは尿素水の不足などが原因だという。

「尿素には自動車用と産業用があります。韓国政府は産業用の尿素を自動車用にまわして尿素水を作っているため、製造業では尿素水が不足しています。しかし政府は毎日、輸入量、使用量、在庫量などの細かい数字を出して、まったく不足していない、と言い続けているのです」

 尿素水は住宅や道路の建設に必要なセメントの製造のほか、鉄鋼生産や火力発電所などでも使用される。

 一方、今回の尿素水問題は文大統領の支持率低下には結びついていないという。キムさんが文政権の支持者たちに聞くと、「尿素水問題は政府の責任ではない、民間業者の責任なんだ」という答えが返ってきたという。

「2年前、日本が半導体の製造材料について輸出管理を強化した際、日本に対してはあれほど怒ったのになぜ、中国には怒らないのか、と聞きました。すると、日本の場合、韓国を困らせるためにわざとやった行動だけど、中国の場合、国内で尿素が不足しているから仕方ない、と言うんです。そういうふうに中国の立場を理解している人たちがけっこういる。文政権も同じような考え方だと思います」

■「反中には何のメリットもない」

 日本は半導体の輸出管理を強化したが、韓国の半導体製造業で問題が起きるようなことはなかった。だが韓国政府は当時、「国際的なサプライチェーンを破壊するものである」と、激しく日本を非難した。

 反日をあおれば支持率の上昇につながるが、反中は支持率につながらない。それどころか、「いつも中国に媚びを売っているのにこういう事態になったじゃないか、と国民から責められかねないからだろう」と、キムさんは分析する。

 日本の化学産業に詳しい関係者はこう語る。

「日本は長年安定供給を最重要視し、尿素やその原料となるアンモニアを自前で作っているのが韓国との大きな違いです。手っ取り早く隣の国から運んでくればコストは安くすみますが、韓国は過度に中国に依存し、このような事態に陥ってしまった」

 韓国政府は今回の事態をやわらげるため、しばらくは割高なスポット価格で尿素を国際市場で買い続けることになるだろう。安い中国産に頼った結果、高い勉強代を支払うことになった。

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)