増田雅史弁護士(撮影/写真部・高野楓菜)
増田雅史弁護士(撮影/写真部・高野楓菜)

 そのように、バーチャル空間が分野を問わず活用されるようになれば、社会生活自体が部分的にバーチャル空間に移行することとなります。そのような場で、バーチャルなモノを自分の資産として保有するためには、それを支える技術やコンセプトが必要です。その有力な手段の一つがNFTです。

 しかし、技術があるだけではその保有や取引に関するルールを当然に定義できるわけではなく、そこに社会を形成するためには、何がしかのルールが必要になってきます。技術と平仄を合わせるかたちでルールが導入されないと、技術自体も役に立たないわけです。他方で、技術を味方につけ、ルールの実行にそれを活用する発想も同時に重要となるでしょう(イーサリアムのスマートコントラクトによる自動執行の発想は、まさにここにあります)。バーチャル空間におけるNFTの活用については、こうしたバーチャル空間ならではの点を踏まえた形でルールを形成する必要があり、技術がわかっている事業者と、私たち企業法務弁護士が並走しながら考えなければいけないでしょう。

 NFTなどの技術を活用したバーチャル空間が生活の一部となることを予期し、適切に答えが出せるように備えておく必要がある。そんな思いも『NFTの教科書』に込めました。本書はその意味では、新しい人間社会のあり方を考えるうえでも参考になる、業界関係者にとどまらない広がりを持つ「未来地図」といえます。

増田雅史
弁護士・ニューヨーク州弁護士(森・濱田松本法律事務所)。スタンフォード大学ロースクール卒。理系から転じて弁護士となり、IT・デジタル関連のあらゆる法的問題を一貫して手掛け、業種を問わず数多くの案件に関与。特にゲーム及びウェブサービスへの豊富なアドバイスの経験を有する。経済産業省メディア・コンテンツ課での勤務経験、金融庁におけるブロックチェーン関連法制の立案経験をもとに、コンテンツ分野・ブロックチェーン分野の双方に通じる。The Best Lawyers in Japan 2022にFintech Practice、Information Technology Lawの2分野で選出。NFTについては、ブロックチェーンゲーム草創期である2017年末からアドバイスを開始。ブログ記事「NFTの法的論点」は、法実務に関する論考としては異例の公開日3000PVを記録。ブロックチェーン推進協会(BCCC)アドバイザー、日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)NFT部会 法律顧問。