日本は最先端技術の分野で「世界一」だと信じてきたが、コロナ禍で蓋を開けてみれば、見えてきたのは「技術大国」のお寒い現状だった―――。先ごろ上梓した『価値変容する世界』(朝日新聞出版)でこう指摘するのは、ジャーナリストの外岡秀俊さんだ。接触確認アプリ「COCOA」の不具合、手書きとFAXでの感染報告、休校時のデジタル環境の未整備など、明らかになった「デジタル後進国」の惨状は、それを正しく伝えてこなかったメディアにも大きな責任があると外岡さんは言う。コロナ禍が浮き彫りにした日本のマスメディアの問題点とSNS時代のメディアのあり方について、インタビューした。
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―――コロナ禍で日本のITの遅れが明らかになったと指摘されていますが、それはなぜでしょうか。
パンデミックは面積、人口、経済力の大小にかかわらず、世界同時に同じ条件で、同じ課題をつきつけ、それにどう対応するかが横並びではっきりしました。これまではほかの国と比較する機会、状況がなかったため、われわれは気づくことができなかったのだと思います。
それにはメディアの責任も大きい。政府はこの20年以上ずっと「ITを変えていく」ことを課題として掲げ、その都度IT政策を発表しましたが、失敗してきました。しかしメディアは政策が発表されるたびに「IT先進国になる」「もっと世界に先駆けて」と、政策の青写真を流してきました。そうすると読者、あるいは視聴者にしてみると、「日本のIT技術はこんなに優れているんだ」としか、思えないですよね。
―――なぜメディアは正しく伝えられなかったのでしょうか。
一つは、「決算主義」でなく、「予算主義」があまりにも大きすぎたということだと思います。各省庁は、予算をどう獲得するか、競ってバラ色の政策を打ち出すわけですね。メディアはその「売り込みトーク」をそのまま流していて、その後、実際に予算がどう使われたのかを深く検証してこなかった。こうした継続取材の弱さは、マスコミ全般にある傾向だと思います。