伊沢拓司著『クイズ思考の解体』(朝日新聞出版)※Amazonで詳細を見る
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 ホントはもう少し各時点での当事者への聞き込みができたらよかったんですが、そうしたところで書籍だよりになってしまった部分が後悔であり、次への課題ですね。追えば追うほど、歴史の中の事実を明確な因果でくくることはできない、ということが学べました。様々な偶然が重なり合った結果として現在の歴史がなんだかんだ作られてしまった、という。後から因果を押しつけないように、というのが執筆後半のテーマになりました。

――本書で「東大生ブーム」や「東大王」、「QuizKnock」についても言及をされています。ご自身で作り上げたクイズ史を自ら客観的に分析されている点に驚きました。

伊沢:もしかしたら自分が記述者になるべきではないのかも知れないんですよね。ガッツリ現代の当事者なわけで、どうしてもバイアスがかかってしまうわけです。客観性は担保されていない。実際、QuizKnockとかはかなり褒めてますしね。いちおう第三者の書いたものを引用していますが、引用すら恣意的なものですから、どこまでいっても限界はあります。

 とはいえ、どれだけ割り引いても、QuizKnockや東大王の影響というのは無視できない。もちろん、良い方向も悪い方向も含めてですけれど。なので、触れましたけど、正直他人にやってほしかったというのが本音です。

 今回の書籍は全体的に誰かのアップデートに資するように、批判的発展があるようにという願いを込めて書いているので、ぜひ良い書き手が増えてくれるといいですね。

――伊沢さんが、力強くクイズブームを牽引されている背景には、このような冷静な分析と謙虚で誠実な姿勢があるということも読み取れます。

伊沢:謙虚たろうとはしていますけど、やはり限界はありますね。本当に徹底的にやるのであれば、もっとインタビューをするべきだったし、いろいろなタイプの人に読んでもらうべきでした。思い込みも多々あるでしょう。

 たとえば、早押しの理論なんかは、どうしても現行のアマチュアクイズ界でメインに行われているものを主眼に据えているので、ありとあらゆる場面を想定できてはいません。「アタック25」的な、テレビショウを盛り上げるための早押しの構造などについては、注釈などでしか触れていないという状態です。本当に冷静な分析を行うなら、自分ひとりではなくて多くの書き手が様々な形で書き継いでいく、書き広げていく必要があります。

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この本がたたき台になれば良いなと…