垣根涼介(写真/加藤夏子)
垣根涼介(写真/加藤夏子)

 エンタメ・歴史小説界の革命児・垣根涼介の3年ぶりとなるの最新作『涅槃』(朝日新聞出版)が9月17日に発売される。「戦国史上最悪」と言われ、440年間のあいだ徹底的に嫌われてきた宇喜多直家をあえて書いた理由とは。垣根氏に話を聞いた。

【インタビュー動画はこちら】垣根涼介が熱く語る!直家の特異性と優しさ、結婚にまつわる逸話とは…?


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 最初に宇喜多直家を書こうと思った理由としては、その実像に対して、あまりにも評判が悪過ぎて、直家が気の毒だったんです。誰も良く書かないんだったらせめて、僕一人ぐらいは直家の味方をしてあげてもいいんじゃないかな、と思ったんです。

 直家は斎藤道三と松永久秀と合わせて、戦国時代の三大梟雄、つまり悪人と呼ばれています。だけど死後440年にわたって悪名を背負うほどに悪いことをしたのかな、という印象が僕の中にありました。
史実を調べても、例えば織田信長とか、武田信玄とか毛利元就とかのほうがよほど酷いことをしていますし、なぜ彼だけが悪く言われるんだろうと。

 その答えは簡単で、直家が人生の後半期に、織田家と毛利家を秤にかけて、何とか生き延びようとしたということに起因します。なおかつ、直家の子どもの秀家の代になって、宇喜多家がつぶれてしまったということもあります。

 もう1つ、宇喜多直家を書こうと思った理由がありまして、彼はその生涯において、勝つ戦を目指しているんじゃなくて、負けない戦をし続けてきたんですよね。

 その生き方って現代の日本にもちょっと通じるところがあるんじゃないかなぁと思っています。結局、日本っていう国はこれからどんどん、マーケットが小っちゃくなっていくんですよ。しかも、この30年間、先進国の中で、人件費が上っていない、ややもすると下がっているのは日本だけなんで。日本は間違いなく、衰退に向かっているんですよね。

 そこの中で、僕も含めた日本人がこれからどう生きていくか、ということを考えると、大勝ちしていく生き方よりも、いかに負けずに、負けない戦いを続けていくかっていうほうに、シフトしていった人間のほうが、おそらく上手く生きられるであろうと。

 戦国時代にちょうどそういう生き方をしていた人間がいる。宇喜多直家を書こうと思った理由ですね。

(聞き手:書籍編集部 牧野輝也)

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