子の引き渡しや監護をめぐる審判で、夫・健吾さんは、妻・夏希さんがいかに子どもをネグレクトし、精神的虐待をしてきたかについて述べ、「だから監護者としてふさわしくない」としている。これについて、夏希さんは真っ向から否定する。

「子どもをおもに養育してきたのは、夫ではなく私です。育児日記をつけながら、家事・育児を行ってきました。体調を崩しやすい乳幼児期には、私が子どもを小児科に受診させ、自宅で世話をしました。保育園の先生方とも連携をとり、毎日、送迎の際に情報交換を行ってきました。最近では、コロナウイルスに感染しないように、マスクを手作りしたりもしました」(陳述書より)

 夏希さんから見ると、夫のほうこそ監護者にふさわしくないのである。

「夫はもともとバイクが趣味で、私が別れたいと言い出す前は、私や子どもを置いて一人で旅行に出かけてしまうこともたくさんありました。そんなとき私は、実家や友だちと過ごしながら、子どもの世話をしてきたのです。夫は、確かに子どもとの外遊びには積極的でしたが、それ以外の細やかな子どもの世話はずっと私がしてきたんです」(同)

 それで、審判の書類には、これまでの子育てについてていねいに書いた。そして、もし夫と離婚しても、子どもには父親が必要だから、積極的に面会を進めていくつもりだとも記した。

「夫はまた家族で暮らしたいと思っているようですが、私はそのつもりはありません」(同)

 審判の結果、子どもの監護権は夏希さんがもつことになった。

 健吾さんは高裁に即時抗告したが、却下された。先に子どもを連れ去って監護の実績を積み上げた側に監護権や親権が認められやすいと言われるが、このケースでは「連れ去り勝ち」は成立しなかった。

 判決に従って、健吾さんは子どもを妻に引き渡そうとしたが、子どもがいやがったという。再三、説得するも子どもは泣いて母親のもとに行くことを拒否した。それで、いまも子どもは健吾さんとともに実家にいる。

 夏希さんは、子の引き渡しの間接強制を申し立てた。健吾さんは「子どもの気持ちを第一にしたいと考えている」と語った。

 今も、決着はついていない。(上條まゆみ)

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