「子どもを養育してきたのは私」と主張する妻。審判の結果、子どもの監護権は妻が持つことになった。画像はイメージです。(画像/PIXTA)
「子どもを養育してきたのは私」と主張する妻。審判の結果、子どもの監護権は妻が持つことになった。画像はイメージです。(画像/PIXTA)

 離婚・別居の際、一方の親が相手に無断で子どもを連れて家を出てしまう「子どもの連れ去り」問題。もちろんDVや虐待など子どもに被害が及ぶ場合は別だが、夫婦の同意なく子どもを連れ去ることは海外では違法とされることも多い。一方で、夫婦の葛藤によって生じる問題から「避難」するためには、子連れ別居するのも仕方ないとの意見もある。

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【前編 なぜ夫は妻に無断で子どもを「連れ去った」のか 連れ去り当事者が語る夫婦の内情】に続いて、連れ去った側の夫、連れ去られた側の妻、それぞれの言い分を掲載する。

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 LINEでのやりとりを見て以来、妻は、健吾さんをあからさまに無視するようになった。健吾さんが洗濯をしていると「私の服に触らないで!」と言ったりした。刺々しい雰囲気は子どもにも伝わる。子どもがそっと健吾さんのそばにやってきて、耳元で「パパ、大丈夫?」とささやいたときには、夫婦げんかに子どもを巻き込んでしまっていることに胸が痛んだ。

 その後も妻の離婚願望は変わらず、それを受け入れない健吾さんに対する怒りは増幅していくようだった。イライラが高じてか、些細なことで子どもをしかりつけるようになった。

「僕が仕事帰りに子どもを学童に迎えに行き、買い物をして帰って夕食を作りながら子どもの宿題を見ていると、妻が帰ってきて一緒に夕ごはんを食べるというのが、当時の生活サイクルだったんです。その日はたまたま妻が夜勤明けで、子どもの宿題タイムに家にいた。それなのに子どもが、僕に宿題のサインをして、って言ったのが気に入らなかったみたい。『なんでママに言わないの』『ママのこと嫌いなの』って、1時間以上問い詰めて。子どもは何にも悪いことしているつもりはないのに、怒られたので泣きだして、見かねた僕が間に入ろうとしたら、すごいけんまくで怒鳴ってきて……」

 ある夜、夜中の3時ごろ仕事から帰ってきた妻が、健吾さんと子どもが寝ている寝室のドアをいきなりバン! と開けて、怒鳴り込んできた。

「『あの金、どこにやった!』って。お金のことで、妻が気に入らないことがあったんです。子どもがびっくりして起きて泣きだしたので、僕は慌てて『下で話そう』と言って、リビングで妻と話をしました」

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子どもは「パパといたい」