『平家物語』から読み解く 中世の人々が本気で怖れた「地獄堕ち」

朝日新聞出版の本

2021/08/19 08:00

『春日権現験記(模写)』国立国会図書館蔵 明治3年写(原本は鎌倉時代に制作)/地獄の様子を描いた場面。右手前に、釜で煮えられている亡者、その側には鬼に舌を抜かれている亡者、後ろには鬼に口を開けられ、煮えて溶けた銅を飲まされようとしてる亡者がみえる。左に描かれているのは、邪淫の罪で地獄に堕ちた亡者。美女を追いかけて樹を登るが枝葉が剣に変わり切り裂かれてしまい、ようやく頂上まで登ると今度は美女は樹の下にいる、という責め苦が繰り返される姿を描いている
『春日権現験記(模写)』国立国会図書館蔵 明治3年写(原本は鎌倉時代に制作)/地獄の様子を描いた場面。右手前に、釜で煮えられている亡者、その側には鬼に舌を抜かれている亡者、後ろには鬼に口を開けられ、煮えて溶けた銅を飲まされようとしてる亡者がみえる。左に描かれているのは、邪淫の罪で地獄に堕ちた亡者。美女を追いかけて樹を登るが枝葉が剣に変わり切り裂かれてしまい、ようやく頂上まで登ると今度は美女は樹の下にいる、という責め苦が繰り返される姿を描いている

 死後、遺族が執り行う法要が死者に下される審判に大きな影響を及ぼすのだとしたら、家族や親しい人のいない死者は誰にも供養されず、厳しい審理を受け、減刑もされずただ結審を待つだけということになってしまう。情状酌量もないまま、いわれのない罪で地獄に堕ちてしまうこともあるかもしれない。

 幼少時から閻魔王の存在に興味をもち、地獄について研究してきた国文学者の地獄に詳しい星瑞穂さんが、著書『ようこそ地獄、奇妙な地獄』(朝日選書)で解き明かした「閻魔王」の正体に「死後のスケジュール」の意味や成り立ち。ここでは、人々が死後の「地獄堕ち」をどれほど怖れていたか、『平家物語』からひもといていきたい。

*  *  *
『平家物語』より、俊寛(しゅんかん)僧都にまつわる逸話を引用しよう。俊寛は、平家打倒の陰謀をめぐらした罪によって、鬼界島へと流罪になった。彼は許されることなく、島で無念のうちに病死するのだが、その寵童である有王丸(ありおうまる)が駆けつけて最期を看取った。嘆き悲しむ有王丸は次のように言う。

「やがて後世の御供(おとも)仕(つかまつ)るべう候(さうら)へども、此世(このよ)には姫御前(ひめごぜん)ばかりこそ御渡り候へ、後世訪(とぶら)ひ参らすべき人も候はず。しばしながらへて御菩提(ぼだい)訪ひ参らせ候はん」

【現代語訳】
(私も一緒に)このまま後世へお供するべきですが(筆者注:自分も死んで、生まれ変わって来世まで仕えることを指す)、この世にはお姫様(同:俊寛の娘)こそいらっしゃるものの、そのほかには供養をしてくれる人もいらっしゃいません。しばらく生きながらえて、お弔い申し上げましょう。(平家物語 巻三 僧都死去)

 王丸はまもなく都へ帰り、俊寛の娘にその死を伝え、娘も有王丸もともに出家して俊寛の後世を弔う。「後世を弔う」というのは、中世文学には頻繁に登場する言葉で、死者のより良い来世を願って、供養を行うことをいう。

 より良い来世というのは、つまるところ極楽往生を願い、地獄をはじめとする三悪趣(さんあくしゅ/三悪道)に堕ちないよう祈ることだ。十王信仰の側面からいえば、十王への減刑のお願いということになる。

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