そんな彼のクリエイター気質を最初に感じたのが、2019年に放送された『霜降り明星・粗品が今一番やりたい企画TV~R-1ぐらんぷり2019優勝者特番~』(関西テレビ・フジテレビ系)だった。これは、粗品が『R-1』で優勝したときに、その特典として作られた番組である。

 この番組では、粗品がアナウンサーと一緒に街頭ロケを行っていた。商店街を歩きながら街の人たちとふれあい、随所でツッコミをいれていく。だが、どこか雰囲気がおかしい。そこから番組は意外な展開を迎えることになる。

 一見すると普通のバラエティ番組の中に「謎」が仕込まれていて、それが徐々に解き明かされていくという仕掛けは、一般的なテレビ番組ではなかなか見られないものだった。『ひぐらしのなく頃に』『涼宮ハルヒの憂鬱』などの凝った伏線のあるアニメ・ラノベ文化にどっぷりつかってきたからこそ、そういう発想が出てきたのだろう。

 粗品がYouTubeで発表した『乱数調整のリバースシンデレラ feat. 彩宮すう(CV: 竹達彩奈)』でも、楽曲と映像の中にちょっとした仕掛けが組み込まれていたりした。人を楽しませることに妥協しないその姿勢が、いかにもクリエイターらしい。

 粗品は絶対音感の持ち主であるそうだが、彼の創作活動を支えているのもそのようなセンスである。お笑いのネタを作るときには「笑いの絶対音感」を発揮して、これしかないという正解のフレーズを導き出す。

 粗品に関しては、芸人が音楽をやっているというより、天才的なクリエイターがお笑いも音楽もやっている、という見立ての方が正確であるような気がする。

 最近、ラジオ番組での熱海発言で炎上騒動を起こしたこともあったが、芸人としての活動は順調に続いている。大谷翔平がたまたま野球を選んだことが野球ファンにとっての幸運であるように、粗品がたまたまお笑いを選んだことが、私のようなお笑いファンにとって何よりの幸運である。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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