最後に番外編を紹介する。05年夏、“高知高校の上田君”なる球児がネット上で話題になった。

 同校は県大会決勝で明徳義塾に延長12回の末惜敗したが、甲子園大会開幕直前の8月4日、明徳が不祥事で出場辞退。急きょ代替出場が決まった。

 その直後からネット上で、同校の上田勝右翼手が1週間前に「自転車で日本を一周してくる」と友人たちと家を出たまま連絡が取れなくなったという情報が拡散された。

 だが、該当する部員は実在せず、自転車で遠出してチームに合流できなくなった話は、デマと判明した。

 ところが、この“都市伝説”めいた話が、明徳ナインの無念を気遣い、「喜んではいけない」と神経を尖らせていた高知ナインに、心のゆとりを取り戻させたという。世の中、何が幸いするかわからない、

 甲子園では初戦で日大三に敗れたが、ナインが最後まで気持ちを切らすことなくノーエラーで戦うことができたのは、ひょっとすると、“上田君”のお蔭だったかも?(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2019」(野球文明叢書)。

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久保田龍雄

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久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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