里香さんの母親は、20代の頃から日本だけでなくイギリスなど海外まで訪れて“神様探し”をしていたという。

「それはもう“婚活”ならぬ“宗活”みたいなもので、私が聞いただけでも少なくとも4つ以上の宗教を巡って、神様を探していたようです。その結果、やっと出会ったのが今の宗教でした。母は教祖に自分の婚期は35歳すぎだと言われ、同じ信者の父とお見合い結婚したそうで、『私は35歳で結婚したの、やっぱり予言が当たっていた』と喜々として話しています。父は両親が信者でしたから自分も入信させられたのですが、もともと体が弱くて昔は苦労していたそうです。母と同じように、父も『こうして元気に暮らせているのは神様のおかげだ』ととても感謝していました」

 小学校5年になると里香さんは中学受験のために猛勉強を始めた。教育熱心だった母親は里香さんを中高一貫の私立高校へ合格させるために時間もお金も惜しまなかったという。だが結果的に、この受験勉強が里香さんの心を苦しめることになる。

「母は自分のことは二の次で、無駄遣いなどは一切しません。すべての時間とお金を子どもにささげようとする人で、その熱量はすごいものがありました。それは信仰に対しても同じ。受験期間中も月に1回の勉強会には必ず参加させられました。勉強会では苦悩の因縁を絶ち切るために神に祈願して、神の教えに沿って生活する、ご先祖に感謝して人と支えあって暮らすなど道徳的なことを説かれます。家庭でも朝と夕方の2回のお祈りも守っていましたが、勉強でストレスがたまっている中で、だんだんと煩わしく感じて、息苦しくなっていきました。テレビもゲームも漫画も好きなように見ることができない。学校でも、もともと人見知りで世間の話題にもついていけないから、教室ではいつも独りぼっちでした」

 つらい受験生活に耐えて、見事に志望校には合格した里香さん。ただ、心はまったく満たされなかった。日々の生活の煩わしさと言葉にできない違和感をどこにぶつけていいのかもわからない。母親が向いているのは「神様」の方ばかりで、いくら勉強を頑張っても、志望校に合格しても自分とは向き合ってくれない。そんな鬱々(うつうつ)とした思いがついに爆発して、ある日、「神様のバカヤロー」と書いた紙をびりびりに破って母親に投げつけ、家を飛び出したのだ。

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家出をした娘に母は「神様に謝りなさい」