「家出といっても、近くに住む母の妹の家へ逃げただけなのですが……。その時の私は神様を否定したかったのではなく、母が一番大切にしているものを壊したかったんだと思います。神様とは関係なく、きちんと私を見てほしかったんです。だから家出をしたら当然、母は心配して怒るだろうと思っていたら、母は心配するどころか『神様に謝りなさい。祈りが足りないからこんなことになるのだから、謝りなさい』と、それしか言いませんでした」

 母親が怒ったのは、里香さんが家を飛び出したことではなく、神様を“侮辱”したことだった。この一件はその後も尾を引くことになり、母親はコトあるごとに「神様に謝りなさい」と里香さんを責めるようになった。

 その一方で、母親の里香さんへの教育熱は冷めることがなかった。もともと絵を描くことが好きだった里香さんに、母親は絵画教室へ通うことを勧めた。だがこれも母と娘の溝をさらに大きくする結果となった。

「絵を描くといっても、私が好きなのはイラストや漫画でした。でも母が通わせた絵画教室ではデッサンばかり。全然楽しくありませんでした。しかも中学入学後に成績が下がったことを理由にテレビ、ゲーム、ネットもすべて禁止という厳しい縛りを宣告されました。つまり、私から楽しみをすべて奪おうとしたんです。そんな生活には耐えられないので、私は『どうかそれだけはやめてください』と何度も何度も母親に土下座をして頼み込みました」

 土下座する里香さんに対して、母親は「ネットは見たいと謝るのに、神様には謝らないのか」とまた過去の一件を持ち出してきたという。結局、ネットは1日30分だけ見ることが認められたが、高校を卒業するまでその生活を強いられた。

「母が言うことはいつも同じです。父も母も体が弱いのに、今こんなに元気に過ごせているのは神様のおかげだと。だからひたすら教本を読んで勉強しなさい、神様に祈りなさいと諭すのです。人間に相談しても悩み事が増えるだけだから、神様を信じて教本を読んで勉強しなさい。人間ではなく、常に神様を頼りなさいというのが基本的な教えでした」

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神様に捨てられるのではないか、という恐怖