横浜市はカジノを含むIR(統合型リゾート)の誘致を進めており、市長選の大きな争点でもある。だが、小此木氏は「反対」に回ることで、あえてIRを争点化させない戦略に出た、ということのようだ。

「本音ではカジノを推進したい菅首相も『やむを得ない』となったようです。菅首相にとっては、もしお膝元の横浜で市長選を落としたら面目が丸つぶれです。選挙では何よりも”勝ち”を優先し、カジノについては、小此木さんが当選した後に諸情勢や世論の推移を見極めながら改めて考えればいい、ということのようです。菅首相としては、気脈の通じた小此木さんが市長になれば、その後のIRの扱いも含め、くみしやすいと考えたのだと思います」(前出・官庁関係者)

 とはいえ、IRに関しては地元議員の思惑もさまざまで「一枚岩」とはなりそうにない。自民党の中にはIR誘致を進めてきた横浜市議も多くいて、「市議の半分くらいは小此木氏についているが、一本化できるかどうかは、まだこれから」(前出・横浜政界関係者)と波乱含みの様相だ。

 いくら地元の横浜に熱い思入れがあるとはいえ、現役の閣僚という立場をなげうって、地方自治体の首長へとくら替えするのは、小此木氏にとっても相当の覚悟が必要だったはずだ。政治家の「待遇」としてもプラスになるのかは不透明だ。

 横浜市総務局によると、横浜市から林市長に支払われた給与は昨年1月から12月の1年間で2772万円だったという。元国会議員秘書は待遇についてこう話す。

「国会議員の平均所得が約2400万円なので、横浜市長の給与はこれより少し多いくらい。だけど、小此木さんはお金に困っているわけではありません。横浜市は人口377万人の政令指定都市であり、市長というのはその大都市における大統領のようなものです。横浜市中区で生まれ育ち、横浜市に思い入れもある小此木さんは、市長の座に政治家としての夢を託したんでしょう。それに秋には総選挙があるため、閣僚でいられる期間は残り3~4カ月くらいだろうし、(閣僚の座は)そんなに惜しくないという判断もあったと思います」

 閣僚という“名”よりも横浜市長という“実”を取りにいった、というところか。いずれにせよ、小此木氏の「カジノ反対」の姿勢が本物か否かは注視が必要であろう。(取材・文=AERA dot.編集部・上田耕司)

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上田耕司

上田耕司

福井県出身。大学を卒業後、ファッション業界で記者デビュー。20代後半から大手出版社の雑誌に転身。学年誌から週刊誌、飲食・旅行に至るまで幅広い分野の編集部を経験。その後、いくつかの出版社勤務を経て、現職。

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