恋柱・甘露寺蜜璃(画像はコミックス「鬼滅の刃」14巻のカバーより)
恋柱・甘露寺蜜璃(画像はコミックス「鬼滅の刃」14巻のカバーより)

鬼滅の刃』は集団戦のバトル漫画であると同時に、キャラクターたちの心情が細かに表現されており、個々の「人生」がうかがえることも人気の秘密である。その中には「恋愛」もいくつか描かれているが、決して多くはない。そんな中で読者の心をつかんでいるのは、鬼殺隊実力者の「柱」である、甘露寺蜜璃と伊黒小芭内のエピソードである。蜜璃が「恋柱」である必然性も含めて、なぜ2人の恋が物語で重要だったのかを考察する。【※ネタバレ注意】以下の内容には、既刊のコミックスのネタバレが含まれます。

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■『鬼滅の刃』の恋愛要素は多い?少ない?

『鬼滅の刃』には、鬼を殲滅するための「鬼殺隊」という組織がある。ここに所属する隊士たちは、日々、命をかけて鬼との戦闘を重ねているせいか、14歳から20代までの構成員が多いにもかかわらず、恋愛的なエピソードはあまり描かれていない。 本編では、主人公・竈門炭治郎(かまど・たんじろう)の妹・禰豆子(ねずこ)に対する我妻善逸(あがつま・ぜんいつ)の片思い場面が時々語られるが、その他の隊士たちの恋愛要素は「憧れ」「好意」くらいの範囲にとどまっていることが多く、物語本編の主軸にはなっていない。

 そんななかで、鬼殺隊「柱」の男女2人が紡いだ恋のエピソードは「異色」と言える。

■「恋柱」という異例のキャラクター

 鬼殺隊の実力者「柱」には、岩柱、音柱、炎柱、風柱、水柱、蟲柱、霞柱、蛇柱、そして恋柱がいる。柱集合の初シーンは、コミックス6巻だ。この場面では、炭治郎が鬼を連れていることが問題になり、その処罰をどうするか話し合うための深刻な空気がただよっていた。にもかかわらず、恋柱・甘露寺蜜璃(かんろじ・みつり)は、頬を赤らめながら、ひとり、周囲の人たちにドキドキときめいている。

<伊黒さん 相変わらずネチネチして蛇みたい しつこくて素敵><冨岡さん 離れた所に一人ぼっち 可愛い><不死川さん また傷が増えて素敵だわ>(甘露寺蜜璃/6巻・第45話「鬼殺隊柱合裁判」)

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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たくさんの男性にドキドキしてきた蜜璃