不死川玄弥(画像はコミックス13巻のカバーより)
不死川玄弥(画像はコミックス13巻のカバーより)

 風柱・不死川実弥には、玄弥という弟がいる。不死川兄弟は、鬼によって運命を狂わされ、それぞれが「鬼狩り」としての道を歩むようになる。しかし、この玄弥は、鬼殺のための戦闘術である「呼吸」が使えず、ある「禁忌」を犯して、その弱点を克服する。そこまでして玄弥が鬼殺隊にこだわったのは、やはり兄の存在があったからだ。不死川玄弥の辛苦に満ちた半生、彼の努力の痕跡を、兄・実弥との関係からひもとく。【※ネタバレ注意】以下の内容には、クライマックスの場面に関連する、既刊のコミックスのネタバレが含まれます。

■不死川玄弥の重大な欠点

鬼滅の刃』の主人公・竈門炭治郎(かまど・たんじろう)の同期のひとり、不死川玄弥(しなずがわ・げんや)は、鬼殺隊が使用する戦闘術「呼吸」が使えない。隊士は、日輪刀(にちりんとう)を持って、鬼と戦うのが常だ。隊士それぞれの「呼吸」の特性に合わせて刀身が色を変えるため、この日輪刀には「色変わりの刀」という別名がある。しかし、「呼吸」が使えない玄弥の日輪刀には変化がない。

 日輪刀を扱えない。鬼殺の剣士としては、致命的な欠点だ。日輪刀も持たずに、圧倒的なパワーを持つ鬼と対峙するのは自殺行為ですらある。

 しかし、玄弥はどうしても鬼殺隊でなくてはならなかった。隊士を辞めるわけにはいかない、重大な「理由」があったからだ。

■不死川兄弟はなぜ「鬼狩り」になったのか

 玄弥は、鬼殺隊の中でも屈指の実力者・風柱の不死川実弥(しなずがわ・さねみ)の実弟だ。玄弥はこの「強い兄」の後を追って、鬼殺隊に入隊を志願したのだった。しかし、なぜ不死川兄弟は、2人して、それも別々に、危険な「鬼狩り」の道を選んだのだろうか。

 不死川兄弟は、ろくでなしの父をトラブルで亡くしており、母と、実弥・玄弥を含む7人兄弟で暮らしていた。ある時、母が鬼にされ、鬼化した母が、幼い弟妹を殺害してしまう。家族を襲ったものの正体が母親とわからぬまま、長兄の実弥は、生き残った玄弥を守るために、母を殺害した。

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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おかしてしまった「最大の禁忌」