元婚約者は、

 「でも、返す意思はない、と?」

 そう佳代さんに確認をすると、小室さんが口を挟んできた。

「あっ、すみません。返すというか、贈与を受けていると認識しておりますので」

 元婚約者は、小室さん親子に対して、「返して欲しい」という意思を、きちんと伝えている。 

 琉球大学法科大学院兼任講師で、ミシガン州の弁護士資格も持つ牧野和夫弁護士は、こう話す。

「借金なのか、贈与なのかという争いはよくあるケースです。裁判所は、書面主義です。契約書で贈与します、という書面による証拠がなければ、『返さないでいいと言った』『返して欲しい』という会話は、証言のひとつに過ぎない。それを持って『返さなくていい』という決定打にはなりません」

 録音テープも、話し合いの経緯が全て録音されていればともかく、一部の切り取りでは、都合のいいところだけを抜粋される恐れがある。また、その場の空気にのまれたり、相手から責められて、本心でないことを口走ってしまう可能性もある。発言の信用性に疑問符がつく場合もあり、証拠として決定打になるとは言い難い。

 小室さんが出した文書は、あくまで小室さん側の一方的な主張に過ぎない。だが、弁護士もついていない法律の素人に、プレッシャーをかけるには、十分すぎる内容だ。

 小室さん側には、法的な知識と実戦経験を有する上芝直史弁護士がつき、小室さん自身もロースクールで3年間学び、弁護士試験の受験を目前にした学生だ。何よりも、皇嗣職大夫の口から、眞子さまという皇族が加わっていたことが明らかになった。現役弁護士と弁護士試験の受験生、そして皇族という布陣。

 「チーム眞子さま」が、法律の素人である高齢の元婚約者を取り囲んだ構図ではないだろうか。小室家に400万円を超える金銭を振り込んだ元婚約者は、生活に困窮しており弁護士もつけることが出来ず、孤立した状態が10年近く続いている。法の素人の知識と交渉能力では、戦うことは難しかっただろう。

 だが秋篠宮ご夫妻や国民が小室家に望んでいたのは、法的な正当性の証明ではない。恩を受けた相手に対する誠実さが伝わる対応だ。

 小室さんの文書から、元婚約者に対する配慮や誠実さは伝わってこない。果たして、「チーム眞子さま」の「交渉」や「話し合い」は、天皇に近い皇族である内親王やその結婚相手となる人物に相応しい、「心」あるものだったと感じる国民が、どれほどいるだろうか。(AERAdot.編集部/永井貴子)