刀鍛冶は霞柱・時透無一郎の良き理解者でもあった(画像はコミックス12巻のカバーより)
刀鍛冶は霞柱・時透無一郎の良き理解者でもあった(画像はコミックス12巻のカバーより)

鬼滅の刃』では、作品の脇を固める多くのサブキャラクターも魅力のひとつだ。鬼を滅殺するための「日輪刀」をつくる「刀鍛冶の里」は、鬼との戦いの舞台ともなったが、そこで暮らす刀鍛冶たちは、特徴的なキャラクターばかりだ。日輪刀には、所有者である剣士と、その刀をうった刀鍛冶たちのエピソードが込められている。鬼退治の影の功労者・刀鍛冶たちの不屈の精神・燃える心は、竈門炭治郎ら剣士たちの成長にも大きな影響を与えている。【※ネタバレ注意】以下の内容には、既刊のコミックスのネタバレが含まれます。

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■鬼を滅殺するための刀・日輪刀

 鬼を狩る「鬼殺隊」は、鬼を滅殺するための刀として「日輪刀(にちりんとう)」を使用する。鬼は「藤の花」と「太陽の光」を嫌う。不老不死に思える強靭な肉体を持つ鬼も、この弱点の克服は困難だ。鬼たちは陽光を避け、夜の闇でうごめき、人を喰う。そのため、鬼殺隊には「太陽の力」を具象化させた武器が必要になるのだ。それが日輪刀である。

<日輪刀の原料である砂鉄と鉱石は 太陽に1番近い山でとれる “猩々緋砂鉄” “猩々緋鉱石” 陽の光を吸収する鉄だ 陽光山(ようこうざん)は一年中陽が射している山だ 曇らないし 雨も降らない>(鋼鐵塚蛍/2巻・第9話「おかえり」)

 陽光山は「日照りの山」であり、極めて神話的であるといえよう。そして、原材料には、「陽の光を吸収してできた物質」という説明がわざわざ付されている。日輪刀が鬼の弱点であることが強調されているのだ。

■日輪刀の刀鍛冶たち

 この、日輪刀の説明をしている鋼鐵塚蛍(はがねづか・ほたる)は、作中で1番最初に登場する刀鍛冶である。刀鍛冶たちは、みな「鉄」やその材料にちなんだ名前を持っている。鋼鐵塚は、この後もずっと主人公・竈門炭治郎(かまど・たんじろう)の「漆黒の日輪刀」を担当することになる。

 鋼鐵塚の素顔はとても美しい。しかし、ふだんは「ひょっとこ」の面で顔を隠している。目を見開き、口をすぼめて、ひん曲げた表情の「ひょっとこ」は、諸説あるが、民間伝承においては、「竈門(かまど)の火」の信仰に関連する。

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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