そんな中での、今回の日本アカデミー賞での「ミッドナイトスワン」の作品賞と草なぎ剛さんの最優秀主演男優賞の獲得は、日本で当たり前になって来た「忖度」という概念を気持ちよく取り払ってくれた。

 草なぎ剛さんという人は本当に不思議な力がある。1997年、草なぎ剛さんは「いいひと」という作品でドラマ初主演。この時のキャッチコピーは「最初で最後の主役です」だった。

 この作品が大ヒットしたことにより、草なぎ剛さん個人だけじゃなく、彼のSMAPの中でのポジション、そしてSMAPとしての位置も更に変わっていった。開いてなかった扉を開いた感じがするのだ。

 そして今回の日本アカデミー賞。昨年の「新聞記者」に続き、今回、「ミッドナイトスワン」と草なぎ剛さんが獲得したことにより、日本アカデミー賞というものの見方がより変わった人も多いのではないかと思う。

 草なぎ剛さんが「奇跡は起きる」「諦めない」と言っていたが、この言葉がこんなにも重くリアリティーを持つことがすごい。

 この1~2年、事務所を辞めてフリーになったり、個人事務所を設立したりする人が本当に増えた。このことに関しては、僕はもろ手を挙げて賛成するわけではない。だって、売れるまでに苦労してる会社の人もたくさんいるし、その辞め方次第では、残った人たちが大きく傷つくこともあるからだ。その辞め方や、「人」によるところもあるとは思う。

 だけど、エンターテインメントの世界に、血液がより広く強く流れていくのはいいことだとは思う。

 草なぎ剛さんとこの作品を作った人たちが開けた扉からさした光はとても大きい。この光が、たくさんの人に、どうか届くことを願います。

鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。パパ目線の育児記録「ママにはなれないパパ」(マガジンハウス)が好評発売中。バブル期入社の50代の部長の悲哀を描く16コマ漫画「ティラノ部長」の原作を担当し、毎週金曜に自身のインスタグラムで公開中。主演:今田耕司×作・演出:鈴木おさむのタッグで送る舞台シリーズ第7弾『てれびのおばけ』が4月14日(水)~4月18日(日) 下北沢・本多劇場で上演。YOASOBI「ハルカ」の原作「月王子」を書籍化したイラスト小説「ハルカと月の王子様」が好評発売中。

著者プロフィールを見る
鈴木おさむ

鈴木おさむ

鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。

鈴木おさむの記事一覧はこちら