◆「自己責任」のもとに、軽んじられる命

 コロナ禍で困窮する可能性があるのは、ネットカフェ生活者だけではない。「明日は我が身」という言葉が、いまほど切実なことはないだろう。しかし、こうした福祉事務所のひどい対応を、社会に広がる「自己責任論」が後押ししていると小林さんは感じている。

「よく『不正受給』を取り上げて悪く言う人がいますが、割合でいえば保護費全体の0.4%です。その一方で、日本は捕捉率が2割。つまり生活保護を受給できる人の8割が受けられていない。他国と比べても低い数字なのに、ほとんど問題視されません。一部の政治家が生活保護バッシングを煽った成果か、『生活保護を受けるのは恥だ』という考え方が定着してしまっているんです」

 実際に相談者のなかにも、生活保護に強い抵抗を感じる人は多いという。

「今まで無理をして働いてきて、大きな病気があったり、高齢だったりするのに、生活保護の申請を拒んだり、受給しても『早く抜けたい』と言ったりする。『自己責任』『他人に迷惑を掛けてはいけない』という社会の呪いが根深いあまり、一人ひとりの命が軽んじられています」

 この先、家があって持ちこたえてきた人にまで困窮が広がっていくのではないかと小林さんは危惧する。とくに年末年始は公的機関の窓口も閉まるため心配だ。

「女性の自殺者が急増していますが、まずしわ寄せがくるのは女性や子どもです。菅首相が所信表明演説で、まず『自助』を掲げましたが、健全な国なら『公助・共助・自助』の順のはず。もし生活が立ち行かなくなったら、何より生き延びることを考えて、公助を使ってほしい。それは今まで私たちが払ってきた税金なので、遠慮せずに利用していいんです」 

 せっかく支援団体につながったのに、「自力で何とかしてみます」と、元の生活に戻っていった人も少なくない。この間に、小林さんが伴走支援をしてアパートに入居できたのは24人。その人たちとは今もLINEで連絡をとり合う。

「せめてコロナ禍が、この国の福祉をよくするきっかけになってほしい。社会に『自己責任論』が広がることで、いざ困ったときにきちんとした公的サービスが受けられなくなるのは私たちです」

(中村未絵)

■プロフィール
こばやし・みほこ/1968年生まれ。一般社団法人「つくろい東京ファンド」メンバー。支援を受けた人たちの居場所や就労の場として設立された「カフェ潮の路」のコーディネーターを務める。共著に『コロナ禍の東京を駆ける』(岩波書店)。