「遠慮せずに公助を使ってほしい」と語った小林さん(撮影/写真部・高野楓菜)
「遠慮せずに公助を使ってほしい」と語った小林さん(撮影/写真部・高野楓菜)

 新型コロナウイルス感染症拡大による影響で、これまで安定した住まいや仕事を得ることができず、ギリギリの生活を続けてきた人たちからの切実なSOSが、支援団体のもとに届き続けている。生活困窮者を支援する一般社団法人「つくろい東京ファンド」の小林美穂さんに話を伺った。

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 コロナ禍が「パンドラの箱をあけた」と話すのは、「つくろい東京ファンド」の小林美穂子さんだ。

 緊急事態宣言が発出され、東京都のネットカフェが休業要請対象になった4月7日、「つくろい東京ファンド」では緊急相談のメールフォームを開設した。その翌朝から今日に至るまで、小林さんたちはコロナの影響で困窮した人たちの支援に駆けまわっている。11月末に発行した書籍『コロナ禍の東京を駆ける』(岩波書店)には、そんな小林さんと相談者とのやりとりや福祉事務所の対応が綴られている。

「コロナ前まで、私たちが支援してきた人たちは、路上生活経験が長い60代以上の男性が中心でした。しかし今回SOSを出してきたのは、ネットカフェで寝泊まりしていた20代から40代が多い。女性も約2割を占めます」と小林さん。

 一見すると、街を歩いている若者と何も変わらず、困難を抱えていることが分かりにくいのも特徴だという。

「アルバイトや派遣、日雇いなどで命をつなぎながら、何年も自力でギリギリの生活を続けていた人たちばかり。相談者の多くが、親が不在か、いても頼れる関係性ではありません。助けを求められる相手がいなくて、半数が『死』を意識するほど追い詰められていました。ネットカフェは最後の最後のよりどころだったのでしょう」

◆放置されてきたネットカフェ生活者

 2018年の東京都調査によると、都内でネットカフェを利用する「住居喪失者」の数は約4千人。不安定就労者が多く、平均収入は月11万4千円だ。

「ネットカフェ代を約7万円払って、食費やシャワーやロッカー代、仕事場への交通費も出す。フルタイムで一生懸命働いても日々の生活に消えて、アパートに移る初期費用をためられません。それなのに相談に行った福祉事務所で、『どうして今までアパートに入らなかったのか』と責めるような言葉を投げかけられたこともありました」

 ネットカフェに「ホームレス状態」の人たちがいることは知られていたが、これまで支援団体にはつながる手段がなかった。国や行政からも実質的に放置されてきた「見えない貧困」が、コロナによって底が抜けることで可視化されたのだ。

「所持金が数百円という状態で、スマホの通話も止められて、無料Wi-Fiエリアから相談メールをくれる人がほとんど。私たちも連絡が来たら、すぐに返信しました。相談者が『早くてビックリした』って言うくらい(笑)。でも、それは次にいつ連絡がとれるか分からないから。その間に命にかかわるようなことが起こるのを、私たちは恐れていました」

 緊急事態は5月末に解除されたが、その期間だけでも届いたSOSは約170件。その後も相談は増え続け、いまは他団体と協力して支援にあたる。コロナ禍が長引くなかで、困窮の度合いは深刻になるばかりだ。

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