そんな中で、「恋愛ネタ」で優勝を果たしたのがピン芸人の吉住だった。彼女は、決勝で2本の1人コントを披露して、両方で高評価を得た。いずれも恋愛を題材にしているが、内容としては工夫が凝らされたものだった。

 1本目のコントでは、野球の「女審判」が主人公である。審判という女性には珍しいとされる仕事をしている彼女は、そのことにコンプレックスを感じている。交際中の男性との会話を通して、そんな彼女の恋愛模様が描かれる。

 2本目のコントでは、密かな恋心を抱く銀行員の女性が、銀行強盗に巻き込まれている場面から話が始まる。命の危険にさらされながらも、彼女は恋愛感情を抑えきれず、極限状況で大胆な行動に走る。

 ネタバレを避けるために細かい部分には言及しないが、吉住は確かな演技力で恋する女性の日常の一端を切り取って観客に提示していた。設定や状況が特殊であるために、彼女たちが抱く恋愛感情の中の滑稽さが浮き彫りになるという趣向だ。

 そもそも、恋愛とはある意味では滑稽なものだ。人が何かに夢中になって周りが見えなくなったり、突飛な行動に出たりすることは、客観的な目で見るとおかしかったりもする。吉住は巧みな手つきで恋愛という概念から滑稽さだけを抽出して、1人コントに昇華してみせた。

 彼女が優勝できたのは、そのネタが「安易な恋愛ネタ」などではなく、しっかりと作り込まれたものだったからだ。女性芸人に偏見を持つ人が女性芸人の大会を見るわけがないかもしれないが、個人的にはそういう人にこそ見てほしい。そして、今後もそういう人に届くような大会であってほしいと思う。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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