――「答えを見つける力」ではなくて、「質問する力」ですか。

 はい。憲法学者の長谷部恭男さん、哲学者の鷲田清一さん、詩人の伊藤比呂美さんをゲストに招いてゼミをやったことがあります(『読んじゃいなよ! 明治学院大学国際学部高橋源一郎ゼミで岩波新書をよむ』)。

 その分野の真のプロを相手に、素人のぼくたちにできることはなにかと言うと、いい質問をすることです。いい質問には、ほんとうのプロは素晴らしい回答をしてくれるはずです。そして、その応答が実現できれば、豊かな場所ができる。「学ぶ」ことがなにかを直接知ることができるのです。そのとき、これが一つの教育の形だなと思うようになりました。

――いい質問をするのは、なかなか難しそうです。

 準備はたいへんでした。4、5カ月かけて、質問の日に備え、学生たちと勉強します。そうやって身につけた知識を、ぼくは「生半可な知識」と呼んでいます。その学問の持つ本質的な何かに気づくための知識です。

 具体的にぼくがやるのは、「先生」として、本のどこが面白かったか訊くこと。いいところに気がついていれば、じゃあそれのどこが面白いのか、ということをやっていく。すると、いい質問ができる。必要なのは、ある程度の知識と感性と真面目さですね。

――いい質問をする力は、本質をつかむ力なんですね。

 はい。それさえできれば、応用も利く。それが大学で教えられる限界だし、それでいいんじゃないか、というのが14年教えた結論です。

 最終的に、その力を自分に向ければいい。「君はこの生き方でいいと思ってるか」とか「この社会について何も考えてないのか」という質問を自分にできるようになっていれば、この社会の中で生きていけるでしょ。

 去年の3月に定年になって、そういう場所を大学の外にも作ろうと思いました。それで神保町ブックセンターで「飛ぶ教室」という私塾を始めたんです。本を読んでその著者をゲストに呼ぶ。そして、質問する。

次のページ
ゼミとの違いは?