――ゼミとの違いはあるんですか?

 基本は同じです。付け加えるなら、その「飛ぶ教室」には「アジール」、現世権力や支配的な思考から自由な場所であってほしいと思っています。中世の大学や教会がそうであったように。かつては、世俗権力に立ち向かうことが「知」の役割だったのです。

 けれど、いまは、教育は国家のための存在になってきています。大学も、なにより社会の要求ばかり気にするようになった。TOEFLやTOEICの点数、就職とか留学とか、そういう話ばかり。そうではない場所が必要だと思ったのです。

――高橋さんの教室にも教科書は必要なんですか?

 もちろん、どんな本でも教科書になりますが、こういう教科書があると楽しいなというものを書きたいと思ったんです。僕は、この本で「いい質問」をしたつもりです。これを参考に、自分の「いい質問」をつくり、この教室の外にある、自分にとって大切な「どこか別の場所」に行ってもらえるような教科書を作りたかったのです。

――『たのしい知識』では、天皇と憲法、朝鮮半島と日本の歴史、コロナ禍がテーマになっています。なぜこのテーマを選んだんでしょうか。

 どれも今の社会に深い影響を与えている問題ですよね。にもかかわらず、答えが紋切り型になりがちだから、という理由もあります。たとえば、憲法だと、最初から、護憲か改憲という紋切り型の議論になってしまう。

 この本では、たとえば、護憲と改憲以外に、4つくらい論点をあげましたが、100個も200個もあってもいいんじゃないでしょうか。自分だけのオリジナルの憲法論を作ってみる。それがなにかを「考える」ということじゃないかな。

――天皇を巡っては坂口安吾、朝鮮半島では中島敦や茨木のり子、コロナ禍ではカミュと、文学が重要な役割を果たしています。

 はい。文学は、人間にとって問題があるところにはどこでも行きます。天皇のところにも、日韓の狭間にも、コロナの流行る場所にも現れる。なぜなら、文学の専門は「人間」だからです。

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日韓問題を論じた箇所で紹介したのは…