相手の話に「否定」から入るのは…

 ここで、自分のパターンに気づいて笑ってしまう人は、その瞬間に少し変わるのですが、残念ながら、慎吾さんは気づかないようでしたので、ちょっとお説教をしてみました。

「いまも『いや』とお答えになりましたよね。私の言うことをあえて否定する理由はないと思うので、それは癖だと思います。だからそれば奥様にも同じことをされていると思います。問題はその癖が相手にどう影響するかです。私も『いや』から返事をされると、なんだか自分の言っていることが否定されたように感じてしまいます。おっしゃっていることの意味を理解すれば否定されていないことはわかりましたが、そういう理解よりも、否定されたという情緒的な反応のほうが何倍も早く、かつ強く感じられるので、受け手の印象に大きな影響を与えてしまいます。いつも自分を否定してくる人と仲良くしたいと思う人はいませんよね」

 すると慎吾さんは、

「いや、そうすると、ウソでも肯定するというのがコミュニケーションなんですか?」

 と反応されました。

「ああ、否定しないと肯定したような気がするんですね」

「いや、そうじゃないんですが、おかしいことをおかしいといわないのがいいと言われても……」

 このまま話を進めると、ぬるぬるとした実りのない議論に陥っていきそうです。その先にあるのは、双方が嫌な気分で話を終えることです。

 慎吾さんのコミュニケーションの癖は、「とりあえず否定から入る」という意識すらなく、「いや」という否定の言葉を常に反応の最初に持ってくることです。このことだけで、話の中身が何であっても、言われた側は嫌な気分になっていきます。私が慎吾さんと気持ちよくお話しするのは難しいことだなと感じたのと同じように、奥様がそう感じても不思議はありません。

 慎吾さんが望む、妻が話をしてくれるような「うまいやり方」を探すのはゼロをプラスに持っていく方法をだと思います。しかし、慎吾さんの場合は、その前にマイナスをゼロに持っていく必要があります。そのためには自分が気づいていない「うまくいかなくしている構図」に気づくことが必要です。

 そこさえクリアされれば、魅かれるものがあったから一緒になったはずなので、プラスの要素は多少なりともあるはずだからです。

 こうしたコミュニケーションをうまくいかなくさせてしまう構図は、ほかにもいくつかあります。

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本当の問題は「話の中身」ではない