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今年もギネス世界記録を保持! 千葉県で漁獲された2300kgの「世界一重い硬骨魚」とは?

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澤井悦郎dot.#マンボウ
「世界最重量硬骨魚」としてギネス世界記録に認定された、1996年8月16日に千葉県鴨川市沖の定置網で漁獲された2300kgのウシマンボウ。3つの矢印はウシマンボウの形態的特徴を示す。(c)鴨川シーワールド

「世界最重量硬骨魚」としてギネス世界記録に認定された、1996年8月16日に千葉県鴨川市沖の定置網で漁獲された2300kgのウシマンボウ。3つの矢印はウシマンボウの形態的特徴を示す。(c)鴨川シーワールド

■「世界最重量硬骨魚」が抱えていた問題

 上述の英書はマンボウ研究者の間でも広く引用され、誰もが「世界最重量硬骨魚」はマンボウMola molaとして信じて疑わなかった。私も最初はそう信じて疑わなかったが、事実は違っていた。

 ウシマンボウとカクレマンボウの学名がまだ決定していなかった時代、私はマンボウ属の文献を網羅的に調査する中で、上述の英書の元となった文献を突き止めた。その文献に載っている写真を確認すると、驚いたことに、2235kgのオーストラリアの個体はマンボウではなくウシマンボウの形態的特徴を持っていた。しかも、この体重は実際に計測されたものではなく、推定体重であることも明らかとなった(数値が細かい理由はメートル法に換算しているため)。ウシマンボウの存在が知られていなかった時代なので、種を間違えていたのは仕方がないにしても、推定体重を世界記録とするのは大きな問題がある。

 もう1つ、近年のマンボウ研究者の間では知られていたことなのだが、ギネス世界記録に認定されていない、2235kg(推定体重)より重い2300kgの個体が1996年に千葉県鴨川市沖で漁獲されていた。つまり、ギネス世界記録と実際の世界記録の間に認識のズレが生じていたのだ。また、この鴨川の個体も当時マンボウと同定されていたが、写真を確認すると、ウシマンボウの形態的特徴(写真の3つの矢印:頭部の隆起、下顎下の隆起、半円形の舵鰭)を持っていた。

 このようにかつての「世界最重量硬骨魚」には、種の間違い、情報の精査不足、記録の未更新という問題が含まれており、一般の人々への知名度が高いギネス世界記録と実際の世界記録のズレを修正する必要があった。

■ギネス世界記録に「世界最重量硬骨魚」と認定されたウシマンボウ

 私はウシマンボウの学名を特定した論文(下記、参考文献)の中で、「世界最重量硬骨魚」はマンボウではなくウシマンボウであることを明示し、論文が出版された後すぐに(2017年12月)、ギネス世界記録本社と日本支部に「世界最重量硬骨魚」の記録の修正をしてほしいとホームページから問い合わせを行った。

 しばらくして双方から「再調査する」という旨の返信があり、2018年9月14日、ギネス世界記録公式ホームページ上で「世界最重量硬骨魚」の項目が、私の論文を引用して、マンボウからウシマンボウに修正された!  1955年から続くギネス世界記録の中で、「世界最重量硬骨魚」は長らくマンボウとされてきたので、ウシマンボウに情報が修正されたことは非常に大きな意味がある。

 残念ながら、2018年発売の『ギネス世界記録2019』には修正が間に合わず、「世界最重量硬骨魚」はマンボウとして出版されてしまったが、2019年発売の『ギネス世界記録2020』では鴨川のウシマンボウに記録が修正され、同定者として私の名前も掲載された。そして、今年発売の『ギネス世界記録2021』(英語版は9月、日本語版は11月発売)でも「世界最重量硬骨魚」の記録は更新されず、鴨川のウシマンボウが記録を保持していた。チーバくん公式Twitterでも紹介されたことがある鴨川のウシマンボウを超える個体がいつ現れるのか……私は毎年ギネス世界記録の本が発売されるたびに確認しなければならない。

【主な参考文献】Sawai E, Yamanoue Y, Nyegaard M, Sakai Y. 2018. Redescription of the bump-head sunfish Mola alexandrini (Ranzani 1839), senior synonym of Mola ramsayi (Giglioli 1883), with designation of a neotype for Mola mola (Linnaeus 1758) (Tetraodontiformes: Molidae). Ichthyological Research, 65:142-160.

澤井悦郎(さわい・えつろう)/1985年生まれ。2019年度日本魚類学会論文賞受賞。著書に『マンボウのひみつ』(岩波ジュニア新書)、『マンボウは上を向いてねむるのか』(ポプラ社)。広島大学で博士号取得後も「マンボウなんでも博物館」というサークル名で個人的に同人活動・研究調査を継続中。Twitter(@manboumuseum)で情報発信・収集しつつ、来年以降もマンボウ研究しながら生きていくためにファンサイトで個人や企業からの支援を急募している。


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