そこから半年後に100万円、3年前に200万円もの金を父親から無心されたという。毎回、その理由は土地の購入。そして今回が3回目となり、今度は300万円と値がつり上がっていた。

 幸いにも、過去2回とも貸したお金は返ってきたものの、回数を重ねるごとに金額が大きくなっていること、そして大切にしたい女性ができたこともあり、もう貸せないと話そうとしていたのだが……。

「母から電話が来て、『お父さんにお金を貸してあげて。仕事が生きがいの人なの。だから助けてあげて』と言われてしまったんです」

 自分の判断に自信が持てず、インターネットの掲示板で似たような相談を調べてみると、『絶対に貸すな』というアドバイスが並んでいた。

「確かにその通りですよね。私も貸したくはありません。でもきっと、父の話は私がお金を貸す前提で動いている仕事なんだろうと思うと、突き放すことはできなかったんです。当事者になると、キッパリとイヤだ!とはいえないものです……」

 悩みに悩んだ揚げ句、山下さんは父親に300万円を貸すことを決めた。

「わずかに貯金も残っているので、同棲資金は問題ありません。しかしこの件はまだ彼女には話せていません。父からは今年の11月末にお金が返ってくると言われていますが、やはり不安です」

 父親との件を彼女に話すべきかどうか。しかし、こんな大金を無心してくる父親がいると知ったら、彼女に別れを切り出されてしまうのではないか。そうした不安から、今でも言えずに結婚にも踏み切れないという。

 第三者からすれば『貸さなければいい』と思うかもしれないが、親を簡単に見限れないところもまた、親子関係の悩ましいところだ。

 そして、もし結婚となれば親も無関係ではいられない。これからも金をせびってくる可能性がある父親の存在が、彼女との結婚を望む山下さんを苦しめている。

 親にとって“できた子”であっても、それが自分の幸せになるとは限らない。いつかは山下さんが「親離れ」をして、彼女との幸せだけを考えられる日がくることを願うばかりだ。(取材・文=吉田みく)