幸運だったのは武井くんには中学3年になる妹がいて、彼女も相撲をやっていることだ。「妹と相撲はとれないけど、一緒に四股やすり足をして励まし合いました」という。武井くんは徐々に「ここがゴールではないから」と思い直し、今は永田くんと同様に、大相撲の道へ進みたいと希望している。

 インターハイの相撲競技は本来なら8月13~15日に青森県の十和田市で行われるはずだった。そこで優秀な成績を残せば、ポーランドで開催が予定されていた『世界ジュニア相撲選手権』にも出場できたかもしれない。実はアマチュア相撲の大会は日本のみならず、世界でとても盛んなのだ。

 コロナによって活躍の場を奪われた飛龍高校相撲部の部員たち。目標を失い、一度は落ち込んだ時期もあったが、いまは前を向いて進み続けている。

「日本相撲連盟のガイドラインに沿って、6月から徐々に稽古を始めています。最初は四股など接触のない稽古から始めて、今は相撲を取らせています。相撲は一人ではできません。相手がいないと成り立たない競技なので、一人では心に染みる稽古はできないんです」(栗原教諭)

 飛龍高校相撲部の稽古は、「自分で考えてやる相撲」がモットー。部員同士が考えて意見し合い、稽古する。そして稽古が終わると、みんなで長渕剛の「乾杯」を合唱する。本来なら3年生は土俵を離れる時期だが、3人は、このまましばらく飛龍高校相撲部の土俵に立ち続けるという。

●和田静香(わだ・しずか)/1965年、千葉県生まれ。音楽評論家・作詞家の湯川れい子のアシスタントを経てフリーの音楽ライターに。趣味の大相撲観戦が高じて最近は相撲についても書く。著書に『スー女のみかた 相撲ってなんて面白い!』『東京ロック・バー物語』など。