静岡県袋井市出身の永田くんは、幼稚園の年中の時、テレビで横綱・朝青龍が優勝する瞬間を見て「この人みたいになりたい」と思い、近所の相撲クラブに入った。小学4年生のときには「わんぱく相撲大会(小学生の相撲大会)」で全国2位に。国技館の土俵に立った。

 大村くんと同様に永田くんも一度も全国大会に出場経験がない。今年にかける思いは相当なものだっただろう。栗原教諭は、生徒たちに電話をかけ、声を聞くようにした。

「とにかく相撲への気持ちが切れないように、ということを大事にしていました。試合も何もない、この先どうなるのか見通しが立たない。そんな中で『これを目標にしろ』とか、『あれしろ、これしろ』とは言えません。生徒それぞれ家庭環境も違いますし、外出ままならない状況です。だから、ちょこちょこ電話をして話をするようにしていました。LINEだと声が聞けないので、電話をして、『元気か? 何やってる?』って聞くぐらいですが、『自分のできることをやろうな』って、伝えてきました。本音を言えば、限りある高校生活の集大成を見せる1年間に試合ができない生徒たちが不憫でなりません。3年生だけでなく、それは1年生も2年生も同じです」

 永田くんは相撲を続ける決意をかためた。

「自分は小さなころから何をやっても続かなかったんです。唯一続いたのが相撲だった。だからやっぱり続けようと思いました。相撲が本当に好きなんです」
 
 プロ入りを目指す永田くん。そして大村くんは大学進学を決めた。もちろん大学で相撲は続けるという。

 もう一人の3年生、武井くんは昨年のインターハイや国体、高知での選抜選手権に出場していた。今年のインターハイでも優勝候補の一角として期待されていた。

「最初、とにかく受け入れらなかったんです。3月の練習中にいきなり栗原先生から、『高知での選抜大会がなくなった』と聞かされました。もう、練習なんてやる気がなくなって……。本当に悲しかった。僕は今年、団体でも個人でも全国優勝を目指していました。でも、そこからコロナがひどくなって……。インターハイもなくなるだろうと覚悟してました」

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