「少女像」は女性の人権を求める運動の象徴だと北原みのりさんは考える(c)朝日新聞社
「少女像」は女性の人権を求める運動の象徴だと北原みのりさんは考える(c)朝日新聞社
作家の北原みのりさん
作家の北原みのりさん

 作家・北原みのり氏の連載「おんなの話はありがたい」。今回は、韓国の植物園に建てられて日本で問題視されている「像」について。「少女像」を女性の人権を求める普遍的な運動の象徴としてとらえる北原氏は、「そんなことを求めてきたわけではない」と思ってしまったという。

【写真】「土下座する像は自己満足にみえる」と北原みのり氏

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 韓国にある私立植物園の園長が、いすに座る少女に向かい土下座する男の像を建てた。作品のタイトルは「永遠の贖罪」という。男の背格好や横顔は安倍晋三首相に似ていないこともない。というか、似せてつくったことは作品タイトルからも明らかだろう。

 一私立植物園の園内にある作品にそこまで目くじら立てることもないと思うが、菅義偉官房長官は「国際儀礼上、許されない。事実であるとすれば、日韓関係に決定的な影響を与える」とかなり感情的に強い言葉を使って怒りをあらわにした。

 菅さんの怒りとは方向は違うが、私自身もあの“作品”は、適切な言葉がなかなかみつからないが……「きもい」という言葉が最初に浮かんでしまった。そうじゃない、そんなことをしてきたわけじゃない、そんなことを求めてきたわけじゃない、これは「慰安婦」の女性たちの闘いではない。そんなことを思わずにいられない。

 この2体の像が、リベラルな思考を表明しながらもセクハラや性暴力には無理解のオジサン(よくいますね)の自己実現にしか見えなかったのだ。反権力で闘い続けてきたリベラル男性の感性の限界に見えてしまうのだ。

“いわゆる”最初の「少女像」は2011年につくられた。1992年に始まったソウル日本大使館前での水曜デモ1000回を記念したものだ。制作を依頼したのは「慰安婦」女性たちを支え続けた挺対協(現・正義連)だ。挺対協によれば、像であれば何でもよかったという。死者を象徴するとされる蝶でも、それこそ文字が刻まれた碑でも。

 結果的に作家が提案したのが、「少女像」だった。被害にあった女性たちの多くが当時、10代だった。よく「『慰安婦』は新聞に掲載された募集に応じただけ」と言いたがる人がいるのだけれど、彼女たちの多くは文字教育も受けない貧しい農村出身だ。子どもたちが想像を絶する性暴力にさらされた。その事実に向き合い続け、記憶を継承するために「少女」がモチーフにされた。 

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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謝罪像は自己満足に写る。その理由は