フェミニズムへのバックラッシュが始まったのもそのころ。出版界で『まれに見るバカ女との闘い』(宝島社文庫)など、小田嶋隆氏、呉智英氏などの人気コラムニストが面白おかしくフェミニストをバカにする本が、話題になったのも、当時の私には恐怖だったが、今思えばあれはモノ言う女へのヘイトスピーチにほかならなかったのだろう。

 今、ようやく流れが少し変わってきたのかもしれない。前田氏が出演したTBSのワイドショーでは、コメンテーター全員が「緊急避妊約は推進したほうがいい」と言い、なかには「女性の人権を阻害するな」「前田氏のような男性が発言権を持っているのが問題だ」ということまで言った人もいた。最近は20代の女性たちが堂々とフェミ的発言をしているのが、本当に心強く感じる。バックラッシュの最中に青春時代を過ごした30代40代の女性たちに、男性の反応を慎重にうかがい、フェミとの距離を取る文化を過ごしてきている人が多いのを感じるが、ようやくバックラッシュの呪いから解放される世代が歩きはじめたのかもしれない。そういう意味で、自分の言葉で考えるゆとり教育は成功したのだろう。

 前田氏個人に批判は集まっているが、産婦人科とは、そして日本社会とは長い間そのような場所だったことも含めて、私たちは今度こそ本当に変えたい!という意志を持って、良い流れをつくっていきたいと思う。

 私自身もずっと産婦人科に行くたびに惨めな思いをしてきた。一度、緊急避妊薬を処方してもらったとき、医師に「ここで、今、私の目の前で飲んで」と言われたことがあった。意味がわからなかったが、後で知人の産婦人科医師に聞くと、「転売するとでも思われたんじゃないかな」とのことだった。高く、手に入れにくいから「転売するかも」という恐れが産婦人科業界内から生まれる。安く薬局で買えたら転売する人もいなくなるだろう。
 
 長い間、産婦人科は男性の職場だった。過酷な労働現場で「女は耳鼻科や皮膚科に行け」というような医大の空気のなか、女性が女性を診るという文化すらないなかで、女性の身体は不当に、不要に医療の名のもとに管理されてきたのかもしれない。

 今、女性の産婦人科医が増えてきた。声を上げても怖くない。笑うほうがおかしい。そんな気分で、世の中を少しずつ変えていければいいのだと思う。明るい希望だ。

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表

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北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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