そうか。ウンコを投げたり、タバコをワンカートン吸いしたり、ノーコンプライアンス上等の作品じゃないか。俺がそんなに深刻になってどうするんだ。この時にそう気づかされました。

 そして何より、スタッフたちは諦めていませんでした。僕がウジウジしてる間も、日々、撮影再開のための段取りを彼らは必死に整えていました。

 そうして、ようやく撮影が再開されました。新型コロナに厳戒態勢を敷きながら、間取りが全然変わってしまった家での撮影再開。

 ところが新たな障壁。雨です。撮影再開の時期は完全に梅雨真っただ中。毎日のように降る雨に撮影スケジュールはもはやグチャグチャに。

 もうこうなったら意地でも完走せねば。工夫や知恵や、もちろん頑張りや、いろんな意味でスタッフキャスト、一丸になった気がします。

 クランクアップのあいさつで、「この状況のなか、最後まで撮りきったことは、関係者全員、この先ずっと、誇っていい」と言い終わらぬうちに、意にそぐわず感極まってしまいました。ふと見ると、一緒にアップした水野美紀も本多力も、監督の瑠東東一郎も、プロデューサーの藤田絵里花も神山明子も、人というよりはほぼの助監督・松下敏也も、みんな顔をクシャクシャにしながら泣いています。20年ドラマや映画をやってきて、あんなに大勢が泣くのを見たことがありません。別におセンチを売り物にするつもりは毛頭ないけれど、間違いなく、彼らは僕の誇りです。

 放送が中断になった時、僕は視聴者の皆様へのビデオメッセージの中で、僕が演じる大沢木大鉄の口癖を用いてこう言いました。「もし、もしも撮影が再開し、7話以降を皆さんにご覧頂ける日が来たら、僕は心の中は満面の笑みで、こう言いたいと思います。『くだらねぇ』」

 大沢木家は8月21日から帰ってきます。ウンコ投げます。タバコ吸います。プロレス技掛けられます。ギョエエエと叫びます。要するにムチャクチャやります。

 あのとき弱気だった僕を奮い立たせてくれた、あの、あっけらかんとした朗らかな反応の数々にほんの少しでも報いるために。

佐藤二朗(さとう・じろう)/1969年、愛知県生まれ。俳優、脚本家。ドラマ「勇者ヨシヒコ」シリーズの仏役や「幼獣マメシバ」シリーズで芝二郎役など個性的な役で人気を集める。ツイッターの投稿をまとめた著書『のれんをくぐると、佐藤二朗』(山下書店)のほか、96年に旗揚げした演劇ユニット「ちからわざ」では脚本・出演を手がける。原作・脚本・監督の映画「はるヲうるひと」(主演・山田孝之)が近日公開予定

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佐藤二朗

佐藤二朗

佐藤二朗(さとう・じろう)/1969年、愛知県生まれ。俳優、脚本家、映画監督。ドラマ「勇者ヨシヒコ」シリーズの仏役や映画「幼獣マメシバ」シリーズの芝二郎役など個性的な役で人気を集める。著書にツイッターの投稿をまとめた『のれんをくぐると、佐藤二朗』(山下書店)などがある。96年に旗揚げした演劇ユニット「ちからわざ」では脚本・出演を手がけ、原作・脚本・監督の映画「はるヲうるひと」(主演・山田孝之)がBD&DVD発売中。また、主演映画「さがす」が公開中。

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