大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医
大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医
※写真はイメージです(写真/Getty Images)
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 新型コロナウイルス感染症の流行でマスクの着用が一般的になりましたが、暑い夏場はマスクによる皮膚症状が心配されます。最新の海外の研究では、マスク着用によるかゆみについて報告する論文も出ているようです。京都大学医学部特定准教授で皮膚科医の大塚篤司医師が原因と対策を解説します。

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 医者になってからしばらく、私はマスクをせずに診察することが多かったように思います。今から考えると感染症対策として問題がありますが、当時意識していたのは「医者として患者さんに冷たく映らないように」です。お話をするときにこちらの口元が見えるのと見えないのとではだいぶ印象が違います。マスクで口を隠すとどうしても表情が伝わりづらく、患者さんにとっては「怖い」という印象を与えかねません。

 マスクはもともと、1897年、ポーランドの外科医ヤン・アントン・ミクリッチ=ラデツキらが手術時に綿製のフェイスマスクを使用したことに始まります。

 現代の手術用マスクは、主に外科医を中心とした医療従事者向けに設計されており、手術現場において医者の呼気からの病原体を防ぐために使用されています。議論の余地を残す問題ではありますが、マスクは人から人への呼吸器系のウイルス感染を防ぐと考えられています。

 新型コロナウイルス感染症が拡大し、医療従事者だけでなく一般の人も日常からマスクをすることが増えました。私たち医者でもマスク着用の時間が長くなると、皮膚がかゆくなったりニキビが悪化したりします。

 私の場合はマスクをした部分に吹き出物ができやすいのでけっこうつらいです。

 マスクの着用が増えたことによって一般の人がどれだけ困っているか、きちんとした研究はこれまでありませんでした。最近になってやっと海外の報告が出ています。

(Acta Derm Venereol. 2020 May 28;100(10):adv00152. doi: 10.2340/00015555-3536.)

 2315人を対象とした海外の調査ではマスク着用の約20%の人がかゆみを感じているとの報告でした。

 とくにアトピー性皮膚炎の患者さんやニキビがある人は、マスクによって症状が悪化しています。マスクの着用時間が長ければ長いほどかゆみを感じることが多く、かゆみを感じる人のうち約3割がマスクを外して顔をかいています。こうしたことから、新型コロナウイルス感染症を予防するという観点からは「マスクによるかゆみ」は防ぎたい症状です。

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大塚篤司

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大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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