週刊朝日MOOK「新『名医』の最新治療2020」より
週刊朝日MOOK「新『名医』の最新治療2020」より

 近年のAI(人工知能)の急速な進化は、2010年に起きたディープラーニング(深層学習)の高度発達に端を発する。これを機に医療用画像を解析するAIの開発に取り組む企業が急増。画像解析以外のスタートアップ企業も増えている。好評発売中の週刊朝日ムック「新『名医』の最新治療2020」から、「創薬」「自然言語処理」の最前線をお届けする。

*  *  *

■創薬 人間に不可能なレベルで一気に新薬の候補を発見

 2012年にできたばかりの会社が、業界を変えようとしている。AI創薬のパイオニア・Exscientia(イギリス)だ。今年1月、大日本住友製薬との共同研究で、業界平均で4年半を要するとされる探索研究を12カ月未満で完了したことを発表。すでに臨床試験が開始されており、これが成功すれば、世界で初めて、AIと人間が手を携えて作った新薬が誕生することになる。

 そもそも新薬はどのようなステップで作られるのか。まず、(1)疾患を引き起こしている原因物質(たんぱく質)を探す。次に、(2)原因物質に作用する化合物を選ぶ。前述の研究でAIが威力を発揮したのはこのステップだ。これとほぼ同時並行的に、(3)動物モデルによる試験で化合物に毒性がないか、体内で安定的に作用するかなどを確かめ、(4)臨床試験へと移る。

「天文学的数字にのぼるデータから目的の化合物の手がかりを探すのは、人間には不可能な仕事です」と、日本法人Exscientia株式会社代表取締役・田中大輔氏が話す。

 従来のやり方では、研究者が「この化合物はどのような効果が得られるだろうか」と一つひとつ条件を設定して効果を確かめる、という地道な絞り込み作業が必要だった。

 しかし膨大なデータを集計することは、AIの得意分野だ。Exscientiaの「Centaur Chemist™」は、一度に最大100万の条件を設定したうえで、それに合った答えを提示してくれる。

 そして同社は化合物の探索だけでなく、(1)原因物質の特定にもAIの活用を進めている。

「実は最も重要なのがこのステップ。これまでいくつもの企業が創薬にチャレンジしてきましたが、多くはたんぱく質の特定に失敗要因がありました」(田中氏)

次のページ