放射線治療の高評価を決定的にしたのは、1991年に報告されたアメリカの試験結果だ。進行喉頭がん患者332人を手術群と化学放射線療法群(まず抗がん剤治療をし、効果があった患者に根治照射を追加)に分けた。手術では喉頭を摘出するので声を失うが、化学放射線療法では温存できる可能性がある。

 4年間の追跡中、どの時期も両群の生存率はほぼ同じだった。しかも、化学放射線療法群では64%が喉頭を残せた。この報告がきっかけで、耳鼻咽喉科医にも放射線治療の有用性が認識されるようになった。

 12年に報告されたヨーロッパの試験ではさらによい結果が出ている。進行下咽頭がん患者202人を手術群と化学放射線療法群に分け、生存と無増悪生存を比較した。中央値(数字の小さい順に並べたとき中央に位置する値)をみると、生存は手術が2・1年で放射線が3・67年、無増悪生存は手術が1・6年で放射線が2・1年。5年後の生存率も32・6%対38・0%、無増悪生存率は26・4%対31・7%で、どちらも化学放射線療法のほうがよかった。

 この試験が始まった時点ではIMRTが普及しておらず、照射法は3D−CRTだ。IMRTを採用する病院が増えた現在、根治性はより高まっていると考えられる。

「IMRTの真骨頂は放射線を当てたくない臓器を避けて照射できることで、実際に合併症が減ったというデータも多数あります。治療成績の向上と合併症の減少がともに期待できるので、頭頸部領域における放射線治療の存在感は、今後ますます増していくでしょう」(同)

 なお、さまざまながんの手術に関して、週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2020』では、全国の病院に対して独自に調査をおこない、病院から回答を得た結果をもとに、手術数の多い病院をランキングにして掲載している。同ムックの手術数ランキングの一部は特設サイトで無料公開。「手術数でわかるいい病院」 https://dot.asahi.com/goodhospital/

≪取材協力≫
埼玉県立がんセンター 頭頸部外科部長 別府 武 医師
北里大学病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科教授 山下 拓 医師
近畿大学病院 放射線治療科教授 西村恭昌 医師

※週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2020』より